徳間文庫
大阪堂島のホテルで、岩倉宮鳩仁親王と井戸敬商事社長西園寺氏三女靖子の結婚披露宴が、執り行われようとしていた。皇室と接点を持ちたがった、関西財界の願いを込めた政略結婚で、政財界のトップクラスが、列席中であったが、影にはこれを日本の支配層の儀式と見る学生極左グループがいた。
彼らは、眠らせた浴室の花嫁を、ホテルの窓から誘拐する。3億円の身代金要求。周波数の分からない無線による連絡、船がでる直前の移動指示、橋からの身代金の投下等によって犯行グループは見事に身代金を奪取する。そして花嫁に加えられる山荘での奇妙な儀式。
この辺までは活劇を見る様で迫力があり、非常に面白い。
しかし、誘拐グループの仲間割れがおき、3億円と花嫁は巡回劇団の手に落ちる。彼らは花嫁を盾に、国家に対して、低開発国の経済支配中止などいくつかの要求を突きつける。新聞記者の小野寺は彼らと接触、ついには記者会見までさせるが、そこに現れた靖子まで彼らを支援する口振り。議論は国民の間に妙な賛同を得て、政府としても無視出来なくなる。
しかし、要求は国家としては到底受け入れるわけには行かない。さらに靖子が殺害される危険性が無くなってしまえば、靖子自身も彼らと同じ仲間と見なすことが出来た。報道陣を遠ざけ、彼らが武器を所持しているとの偽の証拠を作り上げれば、当局のするべき事は、彼らの抹殺だけであった。
後半の巡回劇団の記述はややだれる気がする。靖子が彼らとの生活に満足し「もう、家には帰りません。」とするあたりの納得性が今一歩。作者はスキーが得意らしくそのための場面を無理に入れている感じがしないでもない。ただし、左翼や若い人のラジカルな考え方を正面から捕らえようとしているところは、それなりに興味深い。
・関西人はな、昔っから風は西から吹くちゅうことを根っからの信条にしとるんや。京都人が天子さまのお帰りをまつという姿勢もそれやし、大阪では太閤はんの昔から政治の風も、経済の風も、文化の風もみんな、西から東に吹くものと信じとる。(8p)
・電話の逆探知の仕方(49ー50p)
・(カン爆弾)丈夫のパチンコ玉が落下して濃硫酸の入ったアンプルを壊し、それが塩素酸カリと砂糖の混合物と解け合って化学反応を起こし、ピクリン酸に点火、周囲の黒色火薬を爆発させるという、素人にも作れるものだった。(117p)
・漢字の漢和辞典上の番号を用いた電話番号の伝達。(179p)
・思うに権力資本こそ我々の大切なものを誘拐し、脅迫していないだろうか。・・・・いじましい誠実さを誘拐して、さあ働け、働けと、安い賃金で死に至るまで人を使役して、巨大な利潤を揚げている。(195p)