五輪書  宮本 武蔵


岩波文庫

武蔵が六十歳の時、彼の兵法について寛永20年岩戸山に参籠して著したものである。抽象的なところもあるが、構え方、位の取り方、足の踏み方、目の付け方、太刀の打ち方等について、実践者でなければ得られぬ経験にもとづく極意が書かれている。
全体を地水火空風の五巻に著している。
第一巻地の巻は兵法の道の大体、二天一流の見立て、その流儀を二刀と名づけた理由、兵法を治める際の心がけなどを説く。第二巻水の巻は二天一流の太刀筋をのべる。いわゆる身なり、目のつけよう、太刀のもちよう、足つかい、五方の構え、五つのおもての次第、構えあって構えなし、拍子、打ち、あたり、受けなど流儀の奥義を羅列しており、全体の中心をなしている。
第三巻火の巻は場の次第、先をしること、景気をしることなど太刀そのものの用法のほか、敵状を知ることなど多数の敵を相手にする場合を中心に述べる。また心理的な動作についてものべおり重要である。
第四巻空の巻は他流の兵法について述べたものだが、他流の大きい太刀を用いる、短い太刀を用いる、太刀の数が多い、太刀の構えを用いる、目をつける、足を使う、早くうとうとする、奥表などを非難し、臨機応変に自然な対応を述べている。
第五巻空の巻は短いけれども武蔵の考え方を総括している。空は何もないことであるが、いろいろ迷いがあって空と言う場合が多い。修行を行って心意二つをみがき、迷いの心が晴れて始めて空の道を得ることが出来るとする。

武蔵の剣法について坂口安吾が「青春論」の中で詳しく述べている。その記述とこの書によって彼の考え方を知ることが出来ると思うので抜粋しておく。
「智恵のあるものは一から二へ変化する。ところが智恵のないものは、一は常に一だと思いこんでいるから、知者が一から二へ変化すると嘘だと言い、約束が違ったと言って怒る。しかしながら場に応じて身を買え心を変えることは兵法の大切な極意なのだ。」
「宮本武蔵は剣に生き、剣に死んだ男であった。どうしたら人に勝てるか自分より修行を積み、術において勝っているかも知れぬ相手に、どうしたら勝てるか、そのことばかり考えていた。」
「剣法には固定した方というものはない、と言うのが武蔵の考えであった。相手に応じて常に変化するというのが武蔵の考えで、だから武蔵は型にとらわれた柳生流を非難していた。」
この考えが吉岡清十郎との戦い、その門弟との戦い、宍戸梅軒との戦い、佐々木小次郎との戦いでどのように生かされたかは本文にゆずる。しかしこのような考え方に足っている、と考えるとこの書も親しみが湧き、うなづける。
020401