赤い楯         広瀬 隆


集英社

本書は、ロスチャイルド家が如何に世界の富を支配してきたかを、詳細な系図を使いながら説明している。同家が、地元の財閥は言うにおよばず、王家、バチカン、有名な芸能人と閨閥によって結びつけられている、という事実を暴き出している点は見事と言うほかはない。その点では大変面白かったし、良い勉強にもなった。

フランス革命からナポレオン戦争にいたる頃、フランクフルトユダヤ人ゲットーの両替商マイヤー・アムシェル・ロスチャイルドは、富裕な封建領主ヘッセン伯の宮廷銀行家として急速に富を増やした。
その三男ネーサンは、織物の買い付けのためにイギリスに渡り、さらにロンドンで金融業を始め、大陸のイギリス軍への軍資金輸送、イギリスのプロイセンへの政府援助金立替えなどで国際金融業者として名を高めた。1812年、アムシェルの死後は、長男アムシェルはフランクフルト、次男サロモンはウイーン、三男ネーサンは引き続きロンドン、四男カールはナポリ、五男ジェームスはパリにそれぞれ定住し、見事な連係プレーによって公債引き受け、金融市場の操作などによって列強の反動的守旧勢力に奉仕しながら世界最大の金融業者に成長していった。またこれとは別にアメリカにアムシェルの兄弟らしい人物が米国に渉り米国ロスチャイルドを発展させている。
さらに1825年、ステイーヴンソンが列車を走らせた年、ヨーロッパに不況の嵐が吹き荒れ、ロスチャイルド家は資本だけに頼っていては暴落に耐えられぬと判断、産業の買収に乗り出した。第一に製鉄、第二に鉄道、第三に水銀と決めた。次男サロモンは鉄鋼会社を買収、さらにその娘がフランス・ロスチャイルドの五男ジェームスと結びつきフランス北部鉄道などを建設、アライアンス火災・生命保険会社を設立した。
この財閥の中心人物ネーサンが1836年に没したこと、および1848年の革命はロスチャイルド家に大きな打撃を与えた。またフランスのクレデイエ・モビリエなど各国の株式会社組織の銀行の台頭は、ロスチャイルド家を守勢に立たせた。しかしクリミヤ戦争、米国の南北戦争などでは依然として大きく国際金融市場を牛耳った。1860年と1902年にナポリとフランクフルトの二家が活動を停止した。しかし他のロスチャイルド家は、地元の有力財閥を次々に閨閥に取り込み、勢力は衰えなかった。それどころか、イギリス・ロスチャイルド家はインドや南アフリカにおける交易あるいは収奪で財を増やした。オーストラリアや南アメリカでも地元財閥と閨閥を組み、勢力を増やしていった。フランス・ロスチャイルドもインドシナなどで大きくなった。
ヒトラーの台頭に対しロスチャイルドは当初必ずしも反対だったわけではない。しかしその反ユダヤ政策がはっきりし、水晶の夜などを迎えると対抗策を打ち出さぬわけには行かなくなった。この間にウイーン・ロスチャイルドは崩壊してしまった。
ヒトラーはロスチャイルドの繁栄を種にユダヤ人を滅ぼそうとした。その結果アウシュヴィッツなどの虐殺等が起こった。被害を受けたのは結局は一般ユダヤ人であった。我々は自分の利益のためにはユダヤ人すら裏切るロスチャイルド家と区別しなければならない。
やがてイギリスは、チェンバレンに変わって戦争好きのチャーチルが登場。彼はフランスのドゴールを引き立て、フランスでのレジスタンス運動を強化させた。ついに本格的戦争に。しかしこの陰には常にロスチャイルドの意向が働いていた。特にスエズ運河をめぐる攻防が激しかった。やがてドイツはスターリンと手を切り、バルバロッサ作戦を決行するが失敗。日本の参戦で米国が連合国側につくことが明らかにった。
連合国が勝利したおかげで、一度は勢力をロスチャイルドは戦後閨閥形勢を通じてふたたび世界を支配するようになった。現代では戦後復興したドイツも含めて銀行、保険、通信、輸送、重化学工業、原子力等あらゆる場所にロスチャイルドが食い込んでいる。その上彼らはインドシナ戦争やイラクのクウエート侵略を仕掛けるなど戦争を起し、武器を売り込んで儲けるようなことまでやっている。彼らはケーマン諸島などのタクスヘイブン地域を利用し、しこたま儲けた金を、地下ルートを通じて、もはや同族にいれてしまったスイス銀行に貯えている。その勢力は今や世界をしはいせんばかりだ。

結局この書で訴えたいところは、「私利私欲を追求する強大なロスチャイルドに世界を支配されぬよう我々は頑張らなければならない。」と言うことだろうか。
私はこの書を全面的に信頼する気にはならなかった。イギリス、フランスのロスチャイルド家が発展して世界各国の財閥や王家と結びついていることは分かった。しかしだからと言って彼らがどこかの意思によって本当に一つで動いているものなのだろうか、と疑問だ。祖先は皆嵯峨天皇だから日本人の意思は一つだ、と言うようなものじゃないだろうか。さらにそれをすべて悪と決めてかかる書き方も面白くない。
結局、私にとっては欧米を考える時、彼らの多くがロスチャイルドで結びついていることを頭に入れなければいけない、とのみ教えてくれた書と言えようか。

(ノート)
ワルトハイムの秘密
オーストリア人名禄にはなぜかワルトハイムの名がなぜか抜けている。アイヒマンが「ユダヤ人の粛正」に動いていた頃、働いていたと疑われているからだ。
ロスチャイルド…・歴史を理解するためにその中心に立つ怪物ジェームス・ゴールドスミスを知る必要がある。
第一章 金銀ダイヤの欲望に憑かれた男たち
ウオール買い13日の金曜日
暗黒の木曜日(1929.10.24)、ブラックマンデー(1987.10.19)、13日の金曜日(1987.10.13)、マードックをはじめとする乗っ取り屋はみなロスチャイルドにつながる。本書の目的はユダヤ人でなく、ロスチャイルド。
フランクフルトの「夜と霧」
フランクフルトゲットーのマイヤー・アムシェル・ロスチャイルド(1744-1812)の出世物語。ウエリントン勝利による儲け。五人の息子をフランクフルト(アムシェル)、ウイーン(サロモン)、ロンドン(ネイサン)、ナポリ(カール)、パリ(ジェームズ)に。
シャーロックホームズのロンドン
五兄弟の一人ネイサンが、ベアリング兄弟と競争すると共に、閨閥を組みながら勢力拡大。現在ではロスチャイルドを中心とする五大金塊銀行で金の価格を決定している。さらにロスチャイルドは五大商業銀行も生み出したのだ。彼らはボーア戦争の金さえ出した。
SOSタイタニック
アメリカ一の鉱山王ベンジャミン・グッゲンハイム、ホテル王ジョン・ジェイコブ・アスター、メイシーを育てたイシドール・シュトラウス等が遭難。いづれもアメリカロスチャイルド家の姻戚にあたった。アメリカロスチャイルドは五兄弟以外で正体不明、初代の兄弟系か。
アメリカ実業界もロスチャイルド系が多い。そのうちのクーン・レープ商会を育てたシフは日露戦争で高橋是清に資金を融通。
パンサーの宝石
パンサーの宝石…ニーナ・ダイヤー、カリナンダイヤ…・呪いの星。ダイヤはかってインドからの輸入だった。ユダヤ人が白人から許されていた仕事はダイヤの研磨と金貸しだけだった。
18世紀末に南アフリカの鉱山発見。
南アフリカのゴールドフィンガー「ミルナー幼稚園」
南アフリカの黒人がおそれた「ミルナー幼稚園」の連中。アルフレッド・ミルナーが特殊な軍団を組織し、ボーア戦争を仕掛け、黒人を徹底的に弾圧した。
ロスチャイルドの資金によって金塊の「アングロ・サクソン」、ダイヤの「デビアス」、ウランの「リオ・チント・ジンク」が起こり、南アフリカの資源を強奪。
第二章 地球のトンネル
発禁書「金瓶梅」

1833年東インド会社の独占的貿易が禁止されるが、違った形で存続し続け、ロスチャイルドはそこから利益を得た。タバコとお茶が収入源。サッスーンは麻薬で利益を確保。やがてアヘン戦争でイギリスの利益確保。彼はジャーデイーン商会を経てロスチャイルドと結びつく。
インデイー・ジョーンズW
ウエルズリー兄弟がロスチャイルドの手先としてインドを支配。ほとんどのインド総督はロスチャイルド系。1857年にはじまるイギリス人とインド人の戦いがセポイの反乱を導いた。第二次大戦後ガンジー等の努力でインドは解放されたが、地元のビルラ財閥、タタ財閥等は依然ロスチャイルドと結びついている。
バーミューダ「魔の三角海域」
タックス・ヘイブンの創設。ールがロスチャイルドに対抗するがやがて飲み込まれて行く。アメリカ穀物五社などはみなロスチャイルド系。パテイーニョの南米チャコ戦争と財閥への道。あのジェームス・ゴールドスミスによるケイマン島の無税化。ありとあらゆる地下トンネルを通してここに世界の金が集まる。
ジェームズ・ボンド「女王陛下の007」
ザハロフは武器メーカー6社(クルップ、アームストロング、シュネーデル、ヴィッカース等大半はロスチャイルド系)に出入り。ボーア戦争でも、日露戦争でも双方に武器を売り込む。
ドイツではロスチャイルドに対抗してクルップ等が19c中葉に台頭、ユダヤ人対抗勢力となる。さらにドイツは中東において英国と鉄道、石油等の利権を争った。このときにイギリスのMI5、MI6などのスパイ組織活躍。これらがぶつかり第一次世界大戦へ。
カリガリ博士とマブゼ博士
ウイルソンの反対を押し切り、ヴェルサイユ条約でイギリス、フランスによる能力以上のドイツたたき。「ドイツ人など二千万人でも多すぎる!」国際的な軍事カルテルが成長し、商売の機会をうかがう。不況によりドイツ民衆のユダヤ人への怒りとヒトラーの台頭。アメリカ映画界にユダヤ系列が多く逃げ、状況を見守りながら映画製作。ヒトラーが政権を取りロスチャイルド系財閥を押しつぶして行く。ドイツ工業界の態度は最初微妙だったが、ヒトラーは組織的ユダヤ人迫害へ。「ユダヤ人絶滅宣言」をうけて英国のロスチャイルド家は態度を変えた。チェンバレンはロスチャイルドつぶしをねらったのか、1939年開戦当初大した戦いをしなかった。双方のロスチャイルド関係の工業地帯の壊滅を恐れたフランスとドイツの関係も同じ。
ロスチャイルド家の反撃
ヒトラーはソ連ルーマニアの石油をねらって東へ。スターリンと手を結ぶ。ソ連はバルト三国等を併合。水晶の夜作戦。イギリスでは戦争好きのチャーチルが登場。フランスのドゴールを引き立て、フランスでのレジスタンス運動を強化させる。ついに本格的戦争に。特にスエズ運河をめぐる攻防が激しかった。スターリンと手を切り、バルバロッサ作戦とその失敗。日本の参戦で米国が連合国側につくことが明らかになった。チャーチル・ルーズベルトの連携プレー。やがてスターリンが加わるがドゴールは入れない。アウシュヴイッツ事件とカチンの森虐殺事件が連動。
第三章 芸術の都パリの下水道
死刑台のエレベーター

黒い雨になぜグランプリが与えられなかったか。審査員はすべてロスチャイルド系。フランスの有名紙ルモンドもまた。ムルロワ環礁に実験擁護説など。
オリエント急行殺人事件
オリエント急行はロスチャイルドに一矢むくいようと会社を興したがいつか取り込まれていた。なぜか。1825年、ステイーヴンソンが列車を走らせた年、ヨーロッパに不況の嵐が吹き荒れ、ロスチャイルド家は資本だけに頼っていては暴落に耐えられぬと判断、産業の買収に乗り出す。第一に製鉄、第二に鉄道、第三に水銀。次男サロモンは鉄鋼会社を買収、さらにその娘がフランス・ロスチャイルドのジェームスと結びつく。ジャームスは北部鉄道などを建設。これをもとに一大コンツエルンを形成。これがオリエント急行を取る。
恐怖のドレフユス事件
1894年。本質はフランス軍が反ユダヤ思想に取り付かれ、ドレフユス大尉をどいつスパイ容疑で告発した事件。冤罪であることがはっきりしても取り消さなかった。
砂漠の秘密協定
「アラビアのロレンス」はアラブのために戦ったが、英国は三枚舌を使う。矛盾する三つの文書サイクス・ピコ協約、マクマホン覚え書き、バルフォア宣言…・当事者はすべてロスチャイルド出身。彼らが今日の中東の混乱を招いた。
(以下下巻)フランスの支配者「二百家族」
フランスの銀行はスイスに隠し口座を持ち、表面上だけでも非常に強いが実質はずっと上。ナポレオンが創設し、フランス一のフランス銀行で投票権を持つ二百家族がフランスを独裁支配している。ジェームスはうまく潜り込み、主力はほとんどロスチャイルドと関係を持つ。スターリンはモロトフ等のユダヤ人を利用してヒトラーと相談し東欧を我が物にしている。スターリンの粛正を裏で動かしたのはカガノヴィッチなるユダヤ人。粛正を通じ、スターリンはウクライナの穀物とバクーの石油を動かし、ソビエトに重工業を起した。もちろんスターリンがハンドリングパートナーとして選んだのはフランスロスチャイルドであった。
地中海クラブ
フランスのアルジェリア侵略が始まったのは1860年。「アルジェの戦い」は都合が悪くアカデミー賞を取るがボイコットされる。虐殺は何百万。ギイ・モレ首相「アラブ人を血で弾圧する」と公言。アルジェを通じて石油関係、自動車関係などで次々と成り金が生れてきたが、いづれもロスチャイルドファミリー。そこで特に目立つのが「ラザールファミリー」の活躍。現在はトタールガスなどを押さえLNGを収奪している。大統領もほとんどロスチャイルド関係でフランスはまさにロスチャイルド一家といって良い。
「地獄の黙示録」
「地獄の黙示録」などの映画はみな西欧人の目で物をみたいんちき作品だ。あんな話から真実は伝わってこない。インドシナをフランスとイギリスなど西欧はずっと狙ってきた。グリーン・ピースの核実験に抗議した「虹の戦士号」爆破事件は邪魔になるものをのぞいたに過ぎない。穀物を利用するためにロスチャイルドの穀物、海運、軍人たちが動いたのである。インドシナ戦争、ヴェトナム戦争はその延長で捕らえるべきだ。
オードリー・ヘップバーンの謎
ヘップバーンはシェルのオランダ王室にも繋がるロスチャイルド系である。オランダは石油ではロイヤルダッチシェル、食品ではユニ・リーヴァ、電気ではフィリップ、機械ではアセア・ブラウン・ボネリ等を擁し、世界を支配しているがいづれもロスチャイルドと関係している。
キュリー夫人のパトロン
キュリー夫人一家はx線の研究にすべてをささげた。これらを引き継いだのはネイサンのひ孫アンリ・ロスチャイルドだった。やがてリオ・チント・ジンク社がスペインの開発を手がけ、ロスチャイルド・ウランカルテルの基を築いて行った。
カナダの太陽
ネイサンの子孫アンソニー・ロスチャイルド、サッスーンの支配する南米の麻薬帝国などが、銀行を支配してカナダ開発には深く関わっている。オーストラリアも同様でロスチャイルドの陰が濃いい。そしてこれらはイギリスとフランスにおける原子力産業の推進に繋がって行く。
バチカンのゴッドファーザー
バチカンはイタリア統合によって失ったかに見えるが、実は途方もなく大きな投資銀行なのだ。彼らは、ヨーロッパ王室と深く関わっている財閥アニエリ家を通じて、ロスチャイルドが食い込んでいる。
悪魔の詩
サルマン・ラシュデイーの「悪魔の詩」はイスラム教にたいする冒涜だ。こんなものに言論の自由を言いたてる権利はない。ところがこの出版元等を探ってみると、ロスチャイルドに繋がっているではないか。
ベルリンは燃えているか
第二次大戦でドイツを農業国にする話もあったが、ロスチャイルドは再建して工業を興させる方が得策と考えた。そのため戦前の企業は何らかの形で生き延び、そこにロスチャイルドが入り込むことになった。彼らは中東戦争を起し、双方に武器を売り込んで儲けることまでした。ドイツの金融界は六○○家族に支配されているとするがロスチャイルドが大きく絡んでいる。
スイス銀行の金庫
スイス銀行は秘密口座で有名。彼らはナチの犯罪者の預金公開にも応じなかったくらいだから、表面上はロスチャイルドと関係なく見える。しかしスイスはロスチャイルドに支配された国々で囲まれている。そこで調べたところやはり繋がっていた。彼ら自身が秘密口座を利用していたのだ。
王者ロスチャイルド
イギリスとフランスにおける二百年にわたる首脳をえらびだしたところ、多くがロスチャイルドに関わっている。ロンドンには「ビーフステーキ・クラブ」なるものがあり、彼らの多くが賊しているらしい。はっきりいってロスチャイルドが地球を動かしてきた。出来るだけ早いうちにこれを打ち壊さなければいけない。