集英社文庫
この著者はじめてのエッセイ集は、1977年、著者39歳の時に刊行された。推理小説作家としてアブラの乗り切ったころであり、一方で家事、育児などの主婦業にも忙しかった。そのような条件の中で推理小説の楽しみを明かしつつ、アガサ・クリステイの作品や自らの小説作法、かって住み親しんだ博多の思い出、人との出会い、主婦として母としての日々など、多くの題材を取り上げている。
1推理小説あれこれ
短編の書き方を三つに分類しているところが面白い。
(1) 自分の身近に起こったことから想像をふくらませて、小説の設定を組んでいく。
(2) テーマから入る。善人のつもりが実は他人を傷つけていないか、など。
(3) 純粋にトリックに基づいて推理小説を組み立てる。(17p)
推理小説が女性をひきつけること、また面白い理由
(1) 女性に潜む変身願望を満足させる(「死者との結婚」(アイリッシュ))
(2) きわめて日常的な面を持つ(「坂道の家」(松本清張))(23p)
歴史推理(成吉思汗の秘密(高木あき光))と時代推理(捕物帖)の考察
クリステイの死とミス・マープルの喪失が視点が面白い(27p)
新しいアイデイアの上に、小説としての感動が加われば最高だ。(40p)
生まれてくる小説の世界を「信じる」重大さ、取材の重要さも面白い。(42p)
2孤独な女たちへ
「女と妻のあいだの闘い」は、この書の中で一番秀逸なエッセイではないかと思う。「妻に対比する言葉は当然夫で、ある一人の夫の一人の妻といった意味で自ずから所有関係を包含している。ところが女に対する言葉は男であり、その場合には一人の男でも多数の男でも良いわけで、いわば女の定義には、何者にも束縛されない奔放な自由が与えられているように思われる。」(46p)とのくだりは見事に考え方をはっきりさせている。ただ最近は女性が強くなり、男性にもあてはまりそうな気がするが…。
他に「過去ある男性とどうつきあうか」が面白い。また「孤独な主婦への提言」で心の旅を薦めていることも興味深かった。
3移り住む日々の中で
博多に対する思いが中心だが「十九件目のイメージの中の我が家」の次の一節が魅力
「しかし、たとえ個々の点を妥協しても、一つだけ、私が「家」について譲れない信念は、生活が家という無機物に縛られてはならないということである。」
4人と人の出合いから
「広義の友・狭義の友」における次の文が印象的。
「「友だち」とは、何と豊かな響きを持つ言葉だろうか。これほど、胸の中をやさしく潤し、時には若々しくふるいたたせてくれる言葉はないだろう。たとえば親子の間柄は人間が生きる上にもっとも強い絆のように言われるけれど、本当に分かり合えるのは、同じ社会を同世代の感受性で生き、経験を共にしてきた友だち同士ではないかと思う。」
(172p)
5思いつくままに
ここにもなかなか味のあるエッセイが多い。
「人々の遠景」の中でワイエスの父がワイエスにすでに歩きすぎた地点で見た風景を、思いだし、出来る限り正確にキャンパスに描写させた、と言う話を聞き、通り過ぎた街角や人々の光景を文章にする訓練をした話や「女が卵巣を取ったとき」の話における第一次性徴の話など面白かった。
020424