あなたの知らないガリバー旅行記     阿刀田 高


新潮文庫

ジョナサン・スウイフトは、1667年アイルランドの首都ダブリンで生まれた。スウイフト家は聖職者の多いイギリスの家であったが、クロンウエルに反抗したため、一族のほとんどが追われ、アイルランドに移住した。ジョナサンの父は、大した収入があるわけではなく、その上妻が懐妊中に急死。ジョナサンは父を見ることなく、伯父のゴドウインの庇護を受けながら不幸な環境で成長。ダブリンのトリニテイカレッジを優秀な成績で卒業した。そして母方の遠縁に当たる正解の有力者ウイリアム・テンプルの秘書となった。ここでの勉強が力となってのちにダブリンの聖パトリック教会の司祭にまでなる。政界進出の夢を追ったが、反対派であるホイッグ党が天下をとってからは立場はもうなく、以後文筆活動に。「ロビンソンクルーソー漂流記」が評判になったことに力を得て、ガリバー旅行記を書くことになったのだという。
以下にほんのさわりだけ紹介する。
我々が知っているガリバー旅行記と言えば、童話に書いてある良いことばかりの小人国の物語だが、この本はスウイフトの作品全体やスウイフト自身をやさしく解説して、スイフトの本当のねらいである皮肉を教えてくれる。
小人国では卵は小さい方の円弧から割って食べるのか、大きい方から割って食べるのかが議論になって戦争になると言う。バカバカし言ったらないが、案外現代にも通じる気がするから不思議だ。
大人国では、ガリバーは王様にイギリスの歴史を語って聞かせる。すると王様は「つまるところ、陰謀、叛逆、殺戮、革命、追放の繰り返しではないか。よくもまあ、そんないまわしいことをあきもせずに続けたものだ。」と語るという。
空飛ぶ島、およびその他の国ではバルニバービ企画研究所のアイデア集が面白い。胡瓜からいかにして太陽光線を抽出するか?人糞をもとの食料に還元する実験。屋根から建て始め、次第に下の方に工事を進めて行く建築工法、蜘蛛の糸で布地を作る計画など。
馬の国では馬が主人公で、人間はヤフーと呼ばれ、徹底的におとしめられている。五匹のヤフーに五十匹分の餌を与えると、彼らは決してなかよくわけあったりはしない、それぞれが必死になって独占しようとする、たちまちつかみ合いの争いが始まる、などの紹介が面白い。
次いで馬の国に想を得たと思われる「家畜人ヤプー」の紹介、作者スイフトの生涯、貧困児処理法、奴ひ訓など他の作品の紹介と筆を進めている。一冊読めばスウイフトの全貌がおぼろげながら分かる仕掛けになっている。
話は作者の経験などをいれて、あちらこちらに飛ぶが、かえって作者自身の人柄がしのばれ、肩がこらず気楽に読める作品になっている。
011009