創元推理文庫 日本探偵小説全集10
捕物帖というタイトルがついているが、いずれも物語性が強く短編推理小説といった趣。趣向がそれぞれに変わっており、好編ぞろいである。探偵は新十郎だが、事件報告訳兼失敗役に虎の介、車椅子探偵を決め込み、虎の介の話だけを聞いて、適当な解釈はするが、大抵間違っていて後で負け惜しみを言うのが勝海舟である。
舞踏会殺人事件
政商加納五兵衛がとりいる上泉善鬼首相は、チャメロスが大使を務めるX国の援助で日本を発展させようとしていた。一方神田正彦が取り入る次期首相候補対馬典六は、フランケン大使のZ国の援助を期待していた。そんな折り、神田宅で仮装舞踏会が開かれたが、加納五兵衛の娘お梨枝の持っている壺から蛇が飛び出し大騒ぎしている間に、五兵衛が、手裏剣を打ち込まれて死んでしまった。
手裏剣を打った犯人田所は、すぐとらえられた。しかし、新十郎は、検屍の結果毒殺と判定され、五兵衛の好きな梅干しが減っていたことから、真の犯人はフランケン大使と通じていた五兵衛の妻アツ子と見破る。
密室大犯罪
人形町の「川木」という小間物屋のかんぬきのかかっている土蔵で、主人の藤兵衛が、刺し殺された。妻のお槙は、甥の芳男とできていて、当日水天宮の祭りに出かけていた番頭の修作ともども離縁、勘当を言い渡されていた。また事件発生少し前に、お槙と関係したと疑われ、勘当された律儀者の加助が、藤兵衛に呼ばれていた。
犯人はお槙か、あるいは加助か、と考えられたが、新十郎は、修作が戻ってきて藤兵衛を殺害、糸を使って密室を作り抜け出したと見破る。
ああ無情
車引きが女に声をかけられ、クロロフォルムをかがされた上、衣装をとられる。別の車引きが、男に中橋別荘に行李が預けてあるから、請け出して本邸に届けてほしいと頼まれる。請け出してみたものの、重いとあけてみると女の死体。彼女は中橋英二郎の女でおヒサ、中橋に囲われた身でありながら、書生の荒巻敏司が忘れられぬとあって、出かける際は女中のヤスがいつもついていた。しかしおヒサに頼まれて芝居小屋に行ったが行方不明になったという。そしてまもなく中橋の水死体で見つかる。
中橋は元役者と聞いて、彼がアメリカへわたった時の記録を調べた新十郎は「二人の車引きをだました男と女は同一人物。盲目の母を中橋に殺されたヤスが、復讐したもの、おヒサ殺しは当局の目をがまかし、さらに容疑を役者の梅沢夢之助に向けるもの。」と見破る。
時計館の秘密
梶原正二郎は、ご家人の息子だったが弱虫。不良仲間に誘われて上野寛永寺に立てこもったが、北へ逃げる途中塩釜で脱出、作り酒屋の入り婿になるが、下男同様にこき使われる。しかし漁師の一力に頼みこみ、米を江戸に輸送、販売するようになると大成功。時計館なる御殿まで造るが、捨てた女房一家や、塩釜の女たちが押し掛けてくる。
ある日塩釜から来た3人が突如行方不明。新十郎は気の弱い正二郎を見かね、一力がふぐ毒で3人を殺し、石油缶に詰めて海に沈めたと見破る。
覆面屋敷
八ヶ岳山麓の多久家当主駒守は83歳、稲守(若死に)、水彦、土彦の3子があったが、3男の土彦を愛し、次男水彦に木木彦がいるにも関わらず、土彦の子風守を世継ぎに決める。しかし風守は、病気で一家から隔離され、覆面をして別棟の座敷牢に住まわせられ、皆はほとんど見かけることはなかった。そして不吉な予言とともに、別棟で火災、焼け跡から駒守と風守らしい二つの死体、そして木木彦が行き方しれずになった。
駒守の自殺であったが、新十郎は「死体は駒守と木木彦。風守は実は存在しなかった。木木彦に相続させたくなかった駒守が、風守が生まれたように見せかけた。しかしその後、土彦の後妻に男子がうまれたため、風守を消す必要にせまられたのだ。」
乞食男爵
女相撲の花嵐おソメはある晩頼まれて、見知らぬお屋敷の庭で大きな石を動かし、またもどす作業をする。オッチョコチョイと評判のチジミ屋久太郎は、貧乏男爵小沼の娘政子を嫁にもらうが、だまされて商売につまずき、たちまち離婚。ところが政子と兄の周信が、おしかけ、「あれを返せ、あれを返せ。」と久五郎、妹の小花を脅迫。このあれが何だか分からないところが面白い。そうしているうちに周信が行方不明になってしまう。
実は周信はある公爵夫人と昔よい仲で恋文を交わしたが、その手紙を一通づつ取り出して夫人を強請っていた。それを久五郎が取り上げて、周信の代わりに収まったのだが、周信がしつこい。そこで久五郎は目端の利く女中のハマ子と組んで、女相撲のおソメに大きな石を動かさせ、さも石の下に恋文を隠してあるように見せかけ、周信が探しているところをぶすりとやった。
トンビ男
楠巡査は、向島の土手を歩いているおり、油紙にくるんだ太股と足首などバラバラ死体の一部を発見。バラバラ死体は、その後も少しずつ発見されたが、胃の中からタケノコがでてきたことから、料亭がうかび、その筋から、毎年妻の命日に一族郎党でタケノコメシを食う才川平作一家が浮かんだ。
平作は、鬼と呼ばれる金貸しだが、身を持ち崩した長男の加十を勘当した。しかし最近次男の石松も遊び始め、加十を許そうと考えている様子。また次女京子と甥の能文が、夫婦になり、平作の秘書のような仕事をしている。女中たちの話から、命日の日にそっとトンビ姿の男が現れ、タケノコメシを食って消えるが、最近こなくなったとの情報を得る。
楠巡査は今一歩まで推理したが、不十分だった。それを新十郎が補って「そのトンビ男が加十、彼は左手の肘から下がなかった。犯人は死体が加十と分かるのを怖れて、バラバラにし、肘から下がなくても分からないようにしたのさ。能文とたぶん京子だろう。石松が勘当されれば、自分たちが遺産を相続できるのだが、加十が帰ってきてはどうしようもないからさ。」
ほかに、以下の作品がある。
(1)無類のけちで、遺産分けを親類縁者が互いに争うように仕組むが、気がついたときには自分が一番殺されやすい立場に立っていたという冷笑鬼、
(2)埼玉県児玉群の奥地で、二人組が加治見家から箱に入った黄金を奪ったが、一方が他を殺して独り占め、その子の復讐談を題材にした狼大明神