集英社 THE CRASH OF CIVILIZATION AND REMAKING OF WORLD POWER 鈴木主税訳
「冷戦が終わって、これからの世界の見方について、いくつかのパラダイムがあるが、歴史的な文明の間の対立という見方が正しいように思われる。ここでいう文明とは西欧文明、イスラム文明、ロシア正教文明、中華文明など八つの文明をさす。今まで世界をしてきた西欧文明は衰え、他の文明が力をのばし、世界は多極化して行く。
西欧文明と他文明の間の協調はおそらく成功せず、対立が生まれるだろう。そのような中で西欧文明が生き残って行くには結束し、自らの文明を再建し、維持して行けるかにどうかにかかっている。また世界の異文明間の対立を防ぐには、世界の指導者が世界政治の多文明性を理解し、力をあわせてそれを維持しようと努力するかどうかにかかっている。」
というような趣旨であるが、著者が最初に全体をまとめて提示してあるのでそれを掲げておく。
アフガン戦争が終結を迎えようとしている。このような事件を理解するために、素晴らしい教科書と言う感じがする。ただ今回のような事件を西欧文明とイスラム文明の対立と考える以前に、イスラム世界における人口爆発、若者の急増、知的な若者の仕事のない状態を認識し、それを世界がどう克服して行くかが大切と考えられる。アフガン戦争が一つの転機となって、文明間の相互理解が進み、この60億の人類の星を守るというコンセンサスを願うのみである。
また第五章に仮定としてヴェトナム内部の対立に端を発し、中国と米国が戦争をする話がある。このとき日本は米国にふらふらし、結局は中国につき、破壊される、という想定になっているが空恐ろしい感じがする。日本は独立した文明圏であることは誇って良いのだが、所詮は小さな文明圏、人口でみてもわずが世界の2パーセントに過ぎない。。有事に際し、どの文明圏と組み、どういう風に対処して行くべきかは、中国や韓国の国力発展をにらみながら決めておく必要がある、と痛感させられた。
(著者による内容のまとめ)
第一部一歴史上初めて国際政治が多極化し、かつ多文明化している。近代化というのは西欧化することではなく、近代化によって何か意味のある普遍的な文明が生みだされるわげではないし、非西欧社会が西欧化するわけでもない。
第二部一文明問の勢力の均衡は変化している。相対的な影響力という意昧では、西欧は衰えつつある。アジア文明は経済的、軍事的、政治的な力を拡大しつつある。イスラム圏で人口が爆発的に増えた結果、イスラム諸国とその近隣諸国は不安定になっている。そして、非西欧文明は全般的に自分たちの文化の価値を再確認しつつある。
第三部一文明に根ざした世界秩序が生まれはじめている。類似した文化をもっ社会がたがいに脇力しあう。社会をある文明から別の文明に移行させようとする努力は成功しない。そして、国々は自分たちの文明の主役、つまり中核となる政府を中心にまとまっていく。
第四部一西欧は普遍主義的な主張のため、しだいに他の文明と衝突するようになり、とくにイスラ諸国や中国との衝突はきわめて深刻である。地域レベルでは、文明の断層線におげる紛争は、主としてイスラム系と非イスラム系とのあいだで「類似する国々の結集」をもたらし、それがより広い範囲でエスヵレートする恐れもあるし、それゆえにこうした戦争を食いとめようとして、中核をなす政府が苦心することになるだろう。
第五部一西欧が生き残れるかどうかは、自分たちの西欧的アイデンティティを再薙認しているアメリカ人や西欧人が、自分たちの文明は特異であり、普遍的なものではないということを認め、非西欧社会からの挑戦にそなえ、結束して、みずからの文明を再建して維持していげるかどうかにかかっている。また、異文明間の世界戦争を避けられるかどうかは、世界の指導者が世界政治の多文明性を理解し、力をあわせてそれを維持しようと努力するかどうかにかかっている。
・ 文明に根ざした世界秩序が生まれ始めている。(21p)
・ 文化は分裂を生み出す力であり、また統合を生み出す力でもある。(31p)
・ 四つのパラダイム…・一つの世界:調和のとれた幸福な世界(歴史の終焉)、二つの世界:我々の世界と彼らの世界、ほぼ184カ国、混沌状態(無秩序)
・ 現代の文明:中華文明、日本文明、ヒンドウー文明、イスラム文明、西欧文明、ロシア正教文明、ラテンアメリカ文明、アフリカ文明(存在すると考えた場合)(58p)
・ 西欧が世界の覇者となったのは、理念や価値観、あるいは宗教が優れていたからではなく、むしろ組織的な暴力が優れていたからなのだ。(69p)
・ ソ連では共産主義というイデオロギーが崩壊し、中国とヴェトナムでは実質的に順応策を取るようになった。だからといって、これらの社会が必ずしも自由民主主義という西欧のイデオロギーを受け入れるという事にはならない。(71p)
・ (英語は)言語や文化の違いに何とか対処する方法であり、違いをなくす方法ではない。(84p)
・ 人は他の人間と自分を区別している特徴によって、とりわけ普通の社会環境にいる他の人々との比較で自分を意識する…女性心理学者は…女性と同席しているときには自分を心理学者だと考える。男性心理学者と同席しているときは、自分を女性として意識する。(94p)
・ 西欧をきわだたせている特徴…・古代文明の遺産、カトリシズムとプロテスタンテイズム、ヨーロッパ言語、聖俗の権威と分離、法の支配、社会の多元性、代議機関、個人主義(97p)
・ 西欧文明に対する対応=拒否主義(日本の鎖国)、ケマル主義(すべて取り入れ主義)、改革主義(和魂洋才)(102p)
・ 近代化はそれらの文化の力を強くし、西欧の相対的な力を弱める。(111p)
・ 西欧の衰退…経済成長の鈍化、頭打ちとなった人口増、政府の巨大な債務、低下する労働倫理、伸び悩む貯蓄率、団結力の衰え、薬物乱用、犯罪多発(116p)
・ 各文明圏の政治的支配下にある地域、世界の総面積に対する割合、文明圏の人口(121p)
・ 1970年代半ばに世俗主義や宗教と非宗教を両立させようと言う動きに「逆行が見られた」という(139p)
・ 宗教の復興に貢献する二つの集団:(1)都市に流入してきたばかりの人々(2)教育水準の高い近代化を志向する人々(148p)
・ 戦後の日本:西欧、中でも戦勝国であるアメリカと関連するあらゆる事物が入り込み、素晴らしい物、望ましい物と見なされるようになった(154p)
・ 他方、一つの文明圏としての日本の特異性、各国の記憶に残る日本の軍国主義、そして他の多くのアジア諸国にとって中国が経済上の中心であるという事実は、日本にとって西欧から離れていくことは出来ても、アジアにとけ込んでいくことは難しいことを示している(157p)
・ イスラム諸国ではイスラム系組織が政治活動を禁じられながら、20世紀初頭のアメリカにおける集票組織と同じように社会サービスを提供している(166p)
・ いずれはイスラム復興運動も下火になり、歴史の中に姿を消すはずだ。それが予想されるのは人口増が鈍化する2010年代と2020年代である(179p)
・ 文明の内部と他文明の間で態度が異なる理由:(1)自分たちとは非常に異なると認識される人々に対する優越感(また、ときには劣等感)(2)そのような人々に対する恐れや、信頼の欠如(3)言語や礼儀正しいと見なされる行動の相違から生じる、意志の疎通の困難(4)他の人々の前提や動機付け、社会関係、社会的慣習に関する知識の欠如(192p)
・ 経済協力の基盤は文化の共有なのだ(201p)
・ 最も重要な孤立国は日本である(204p)
・ 二つの超大国から中核国時代へ(235p)
・ 西欧のダブルスタンダード:民主主義をひろめようとするが、それでいてイスラムの原理主義者が権力をにぎりそうになると民主主義にはこだわらない、イランやイラクには核兵器の不拡散を要求するが、イスラエルにはそれを求めない…・(277p)
・ 文化は相対的であり、道徳は絶対的なのだ。(489P)
・ シンガポール首相
自己よりも社会を上に位置づけること、社会の基礎をなす単位として家族をささえること、主要な問題点は論争ではなく合意によって解決すること、人種や宗教についての肝要さと調和を学ぶこと(490P)
・ シンガポールの白書
<民族的>地域社会よりも国家を、自己よりも社会を重んじる
社会の基本単位として家族を大切にする
個人を重んじ、社会的に支援する
論争ではなく合意によって解決する
人種的および宗教的な調和をはかる。(490P)
011127