茶話    薄田 泣菫

岩波文庫

作者は、大阪毎日新聞に、大正4年からコラム「茶話」の連載を始めた。「お茶を飲みながら世間話をするような気持ちで」で始めたが、話題の多彩、話柄の広範さ、話術の妙とあいまってすぐに大人気を博した。古今東西のさまざまな人物の逸話やゴシップをぴりりとスパイスをきかせて披露している。総数800編余りから著者自薦の154編を収録。いかに面白いと感じたもののさわりを少し・・・・。

焼肴は右か左か

「蘇という字は草冠の下に書く魚と禾とは、どっちに書いたほうが本当か。」と謎をかけ、「どちらでも同じだよ。」と答えると、さっと自分の小さい焼肴と相手の大きい焼肴を変えてしまった話。

独身主義者と結婚と

若い将校が女嫌い独身主義者の元帥に結婚許可を求めると「1年待ちなさい。」と言われた。1年後許可を求めに行くと元帥はしかたなく許可をする。将校は喜んで退出しようとしたが一言「申し添えておきますが、相手は、去年のと同じ女ではございませんから。」

御寝間の埃

ルイ15世の皇后が余り使わぬ公式用寝台の上に埃を見つけた。御寝間係りにいうと「私はふだん用の御寝間の係りで私はさわれません。」誰が係か調べているうちに二ヶ月が過ぎた。太夫が呼ばれたが「まだ係りのものが分かりかねます。」とうとう皇后の宮は御自分でその埃を払い落とされた。

独逸帝国の予言

1849年ジプシー女はゲルマン帝国が出来るのは1849+1+8+4+9=1871年と予測、たずねた皇帝の治世は1871+1+8+7+1=1888年、帝国の存続は1888+1+8+8+8=1913年まで、と答えたがすべてそのとおりになった。

画の接吻

有名な画家が娘に「貴方の御製作を拝見して、覚えず絵に接吻しましたわ。その中の一人が先生にそっくりなんですもの」すると画家は「私だったら・・」と今でも喜んで接吻しそうな顔をした。

文豪の娘

ある青年が文豪の娘に恋をした。結婚と言う段になって娘の父親に言いたいが言い出せず、娘を介していった。すると文豪は娘の背中に答えを書いたと言う。娘が背を青年に見せると「謹呈 作者より」との紙片がはってあった。

前大統領の嘘

田舎町で講演したタクトは停車場に向かったが特別急行は止まらないことに気がついた。そこで鉄道管理局に「大きな団体客が待っている。」と電報し、件の列車を止めさせた。「大きな団体客は・・・」と列車長に尋ねられると「おれのことさ。」と平然と答えた。確かにタクトの体は団体客ほど大きく見えた。

皮肉哲学者が金持ちの屋敷に招かれたが主人に唾を吐きかけた。怒ると「余り結構づくめなお屋敷なのでどこにも格好な場所がみつからなくて・・・。」と平然としていた。

結婚と奴隷

ある女史が民主党議員のクラウド・キチン氏を尋ねた。玄関前の花壇に麦藁帽子をかぶった男。「お前、こちらのお宅に長らくご奉公しているの。お給金はよいのかい」「いや、もうやっと食っていかれるだけ。一向つまりません」「じゃ、宅へきたらどう?」すると男は「でも一生涯こちらの奥様とこに、ご厄介になる約束をしてしまったものですから。」夫人が「まるで奴隷だわ」と驚くと男は「だが、私どもではそれを結婚と申しますよ。」

030118