「永遠平和のために」   カント

岩波文庫

カントは1724年ドイツケーニヒスベルグ生まれで三批判書を表した有名な哲学者である。この書は、後に現在の国際連合の前身である国際連盟の成立のきっかけになったといわれる。それは第1次大戦後のアメリカ28代大統領ウイルソンの「14か条の提案」にもられた内容が、この書から学んだものに他ならないと考えられるからである。現在読んでもなるほどとうなづかされるところが多いことに驚く。

第一章  国家間の永遠平和のための予備条項
第一条項 招来の戦争の種をひそかに保留して締結された平和条約は、決して平和条約とみなされてはならない。
・カントがこの書を公表した動機は、1795年に革命後のフランスとプロイセンの間でかわされたバーゼル平和条約に対する不信であったといわれる。事実両国は10年ほど後に再び戦火を交えている。
第二条項 独立しているいかなる国家(小国であろうと大国であろうと、この場合問題ではない)も、継承、交換、買収、または贈与によって、ほかの国家がこれを取得できるということがあってはならない。
・国家は所有物ではなく、それ自身以外の何者にも支配されたり、しょりされたりしてはならぬ、という明確な考えに基づいている。
第三条項 常備軍は、時と共に全廃されなければならない。
・常備軍の存在は、他国を戦争の脅威にさらし、そこから無際限な軍備の拡張が双方に生じ、軍事費の増大によって国内経済が逼迫し、この重荷を逃れるために常備軍の存在そのものが先制攻撃の原因となる。ただし国民が自発的に武器使用を練習し、自分や祖国を外からの攻撃に備えることはかまわない、としている。
第四条項 国家の対外紛争に関しては、いかなる国債も発行されてはならない。
・借款制度は、国家権力が互いに競い合う道具として限りなく増大する危険性がある。
第五条項 いかなる国家も、ほかの国家の体制や統治に、暴力をもって干渉してはならない。
・一国が騒乱等によって分裂したとき、一方に加担して干渉することを禁じている。
第六条項 いかなる国家も、他国との戦争において、将来の平和時における相互間の信頼を不可能にしてしまうような行為をしてはならない。
・戦争は暴力によって自己の主張する正義を押し通そうとする卑劣な行為である。その中で他人の無節操を利用するたとえばスパイ行為などは、それが平和時にも持ち越されるゆえ絶対おこなってはならない。

第二章 国家間の永遠平和のための確定条項
第一確定条項 各国家における市民的体制は、共和的でなければならない。
・ここにいう共和制とは、自由と平等の権利が保障された国民が、共同の立法に従っている国家体制で、しかも代表制を採用し、国家の立法権と執行権が分離している国家体制である。戦争遂行に、国民の賛同が必要で、あらゆる苦難を引き受けるのは国民自身であるから、国民は「割りにあわない賭け事」をすすんで求めることはないだろう。
第二確定条項 国際法は自由な諸国家の連合制度に基礎をおくべきである
・ローマ帝国のような、諸国家を征服した一世界帝国の出現をのぞまない。一国内の共和的体制ににた世界共和国ができれば、永遠平和の維持に望ましいが、それができないとなれば「その代替物」として、独立した諸国家の国際連合という形がベストだろう。国際法もこれを土台としなければならない。
第三確定条項 世界市民法は、普遍的な友好をもたらす諸条件に制限されなければならない。
・世界市民はどの国でも訪問できる訪問権をもつことが期待される。しかしその地の保障する範囲に限定される。それを超える場合には国外退去を命ぜられてもやむをえない。最近のヨーロッパ列強の植民地獲得は明白な違反である。中国や日本が鎖国政策で応じたのは正しい。

第一補説  永遠平和の保障について
・自然は人類があらゆる場所で生活できるよう環境を整え、人類が自分の利益を求めて争うことを利用して分散させ、戦争を利用して、人類が法的関係になるよう促している。民族間の抗争もそれを通じて「きわめて生き生きとした競争による力の均衡」の上に永遠平和が築かれるようにしている。人類は永遠平和を求めて努力しなければならないが、時間はかかるものの不可能ではなく「自然が永遠平和を保障している。」
第二補説  永遠平和のための秘密条項
・国家は哲学者に戦争や平和の問題に関して自由に討議させ論議させ、それを参考にすべきである。ただし権力の所有は、理性による自由な判断を妨げるから、哲学者が国王になることは好ましくない。
付録1 永遠平和という見地から見た道徳と政治の不一致について
・政治は国家権力の増大を目的としたもので、不正な手段を用いてもかまわない、との俗説があるが間違っている。政治を道徳にあわせる必要がある。
付録2 公法の先見的概念による政治と道徳の一致について
・正義はつねに公表性と結びついている。ここから「公法の先験的公式」が導かれる。それによれば、公表性と一致しない政治的格率はすべて不正なのである。

050416