新潮文庫
作者が取材などで各地を旅した記録である。しかし旅行記というものは作者が巻末でいうように「どこそこに行きました。こんなものがありました。こんなことをしました。」というように面白さ、珍奇さをならべただけではなかなか人は読んでくれない。
そこで「<それがどのように日常から離れながらも、しかし同時に同時にどれくらい日常に隣接しているか>ということを<順番は逆でもいいんですが>複合的に明らかにしていかなくてはいけないだろうと思うんです。そしてまた本当の新鮮な感動というのはそこから生まれてくるんだと思うんです。」と作者は考えてまとめた、ということである。
従ってこの旅行記を読むにつれ人間村上の考え方なり、本質なりに接近できる、そこがこの作品の魅力であると思う。
・イーストハンプトン・・・作者たちの静かな聖地
・無人島・からす島の秘密・・・・からす島は瀬戸内海にある個人所有の小さな島。そこにテントを張り一夜を過ごすのだが、虫に悩まされるなどいいことは一つもなかったという。しかし私は作者は得がたい経験をしたのだと思う。
・ メキシコ大旅行・・・・西武海岸沿いにプエルト・パヤルタからラス・カサスまでの旅。
僕の人生というのは・・・・何も僕の人生に限ったことではないけれど・・・・果てしない偶然性の山積によって生み出され形成されたものなのだ。人生のあるポイントを過ぎれば、われわれはある程度その山積のシステムのパターンのようなものを飲み込めるようになり、そのパターンのあり方の中で何かしらの個人的意味を見出すことも出来るようになる。(53p)
・讃岐・超デイープうどん紀行
・ ノモンハンの鉄の墓場・・・若いときから彼はノモンハンに興味を持っていたらしい。ノモンハン事件は学校では大して扱われない限定戦争だが、日本人の非近代をひきづった戦争観=世界観が、ソビエトという新しい組み換えを受けた戦争観=世界観に完膚なきまでに撃破蹂躙された体験である。その跡地を訪ね歩き戦争の無意味さを知る一遍。雌の狼を撃ち殺す場面が秀逸。この経験はねじまき島クロニクルに生かされる。
・アメリカ大陸を横断しよう・・・・ボストンからロスアンゼルスまで車で横断する。雑誌に書いたものである。
・ 神戸まで歩く・・・・幼少時代をすごした場所を再び訪問。