法医学教室の午後       西丸 興一


朝日文庫


霧笛の夜
出生届を出していないため、籍が無く生年月日も分からない自殺娘の話
事件は水物
通報で、酒の飲み過ぎで過失による水死と考えられた男性は実は殺されたと言う話
名前のない子
出生届の無いおかげで死んだ子の名が分からない。しかしこれが縁で七年間の内縁だった妻は結婚できることに
偽装心中
ラブホテルでガス心中を図ったが、実は女の飲んだ薬は睡眠剤、男のそれはビタミン剤
美しい妹
労災金がほしい、病死ではなく、事故死にして下さい。おどして、すかして、色じかけ!
生きとし生けるもの
・生命の脆さを見るのは、外因的な物に多く、机の上で寝ていて床に落ちたら死んでしまったとか、入浴中に七十ボルトの線にちょっとふれただけで死んだとか、やくざに囲まれて「おい、兄さん」と方をこづかれたら、そのまま倒れて死んでしまったとか・・(63P)
事故死と病死
救急隊員は急性アルコール中毒による心衰弱としたが、監察医が調べると妻による殺人
野暮な話と粋な話
大便と一緒に赤ん坊を産み落とした女、そっと死んだ夫の陰毛を起こしてやった女・・・
苦い酒
酔った女房を突いたら死んでしまった・・・男は逃亡、監察医の判断は肝硬変による病死
約束
結婚するときに打ち明けた間違い話を苦に、二十年後に自殺した男の話
懐かしい人々
ケロヨン・コーワの薬物中毒といきりたつ記者たち。もみての製薬メーカー。伝染病による死亡としたら怒る者、喜ぶ者・・・
火葬場の予言者、南に行く
焼かれた骨を見ただけで「この人は、頭に出血があった。」と判定する火葬場の予言者
はにわりの人
男か女かはどうして決まる・・・自分でも分からなくなってしまった人の喜劇
死者からの手紙
私が解剖した男から手紙をもらってしまった。本人が生存している事実の認定、死亡届の記載事実誤認の認定および理由書・・・(136P)
戻ってきた事件
十年近く前にショック死の疑い、自他災不詳と判定した男を、「実はおれが殺した。」と自供した男が飛び出して・・・。
とかくお酒というものは
酒を飲み上官の奥方のスカートをめくって出世を逃したGI、朝、気がついたら若い娘の布団に潜り込んでいたという男の話・・・
調子が狂う話
車が接触したらしい、ふと見ると腕が落ちていた。しばらくすると「おれの腕が落ちていなかったかと。」男がやってきた。あの腕はくっついたろうか。
密輸エレジー
金や麻薬を肛門や膣の中に隠して・・・。破裂して死んでしまったり、尻をたたかれて飛び上がったり・・・・。
罪のない女
病死し火葬許可証も取った赤子を持ち歩いた女。火葬は何時までにという規定はない。
父と子の間で
私の子供として認知したいと外人、落ち目の彼の子になったら不幸、新しい恋人の子にと女。
チャプリンの子供の問題。
・民法七七二条・・・「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫のこと推定する」「婚姻成立の日から二百日後または婚姻の解消もしくは取り消しの日から三百日以内に産まれた子は、婚姻中に懐胎した者とする。」・・・妻の浮気!
Kの死
生まれつき、体にあざを持った不幸な男が行き倒れた話
血を合わせる話
血が骸骨にしみ込んでゆくようなら親子、混ぜて固まれば親子などと信じられていた。滴骨法などという。東昏王の話、平経正の話など。
或る捜査
三沢公園で発見された遺体は死の直前の行動から精神病院から逃げてきた男である事が分かった。誰にも知られず消えてゆく事件の捜査も大切だ。
美しい業を見た
戦後、女は食べるために身を落とした。しかし好きな人に巡り会い、添い遂げようと掻爬まで受けた。その女性が死んだという。
白い毒薬
エジプト時代の毒は植物毒主体、その後砒素と昇こうが中心。ソクラテス(ヘマロック)、ペロポネソス戦争、ローマ時代のロークスター(トリカブト、マンドラゴラ)、トファナ水(亜砒酸)、ボルジア家の毒(カンタレラ、豚の内臓+亜砒酸)、ブランヴィリエ侯爵夫人(アルカロイド)
推理小説と法医学の間で
浴槽に電気カミソリを放り込んだら人が死ぬか、山形県鶴岡市の実際にあった時刻表トリックの話(新潟鉄道局課長の助言)
高瀬舟
安楽死・・・うかつに手を出してはいけない。しかし、自分がその立場にたったら・・・。
死とのむなしい対話
私の死生感。若い人の遺書(感じられない悲壮感)、中年の遺書(長い、悲壮感、ぎりぎりの緊迫感)、老年の遺書(あきらめ)。
・自然に訪れる死にたいしては、やはり諦観のようなものが必要であると思いながらも、戦うべきであると考えるし、まして何らかの理由で、自らの生命を絶つという事は、それは人生の敗北である。(286p)