田山 花袋
蒲団
作家竹中時雄は三年前に、三人目の子が細君の腹にできて、新婚の快楽などはとうにさめつくした頃であった。そこに神戸の女学院の生徒横山芳子が志願して弟子入りしてきた。彼の家庭はいっぺんに明るくなった。ところが彼女に神戸教会の秀才で同志社の学生田中秀一なる恋人がいることがわかった。竹中とすれば娘を預かっている身、彼女の実家の親に責任がある一方、大切なものを取られるというあせりもある・・・。
・ 「妻と子・・・家庭の快楽だと人は言うが、それに何の意味がある。子供のために生存している妻は生存の意味があろうが、妻を子に奪われ、子を妻に奪われた夫はどうし寂寞たらざるを得るか」時雄はじっとランプを見つめた。(84p)・・・・どうも考えが甘いような気がする。
重右衛門の最後
昔、学校で知り合った男の家を長野の山奥の村に訪ねると村は放火騒ぎで揺れていた。犯人は大体はわかっている。藤田重右衛門と彼の元に起居している娘。しかし娘にやらせて重右衛門は表に出ず、娘は逃げ足が速いから警察は証拠をつかめない。重右衛門は睾丸に病を持っている。そのため、放火をし警察に入り、また出てきて放火を繰り返しているのである。しかし村の者がこの自然児に最後まで黙っているわけではなかった。
・「敗積して死ぬ!これは自然時の悲しい運命であるかもしれぬ。けれどこの敗積はあたかも武士の戦場に死するが如く、無限の生命を有しておるまいか、無限の悲壮を顕しておるまいか、この人生に無限の反省を請求してはおるまいか」(163p)・・・・どうも感傷的に感じる。