イワシの自然誌   平本 紀久雄

中公新書

イワシは栄養豊富で、食用、肥料用など昔から幅広く使われ「海の米」とさえ呼ばれていた。ところが1988年に最高450万トンも水揚げされたものが、90年代半ばには70万トンに過ぎなくなるなど、その資源量が大きく変動している。房総に住み、長年イワシの生態を研究してきた著者はその理由をさぐるため、この書を著したという。

イワシ類(ニシン目)の魚は。世界にざっと300種以上もあるといわれている。わが国周辺でも3科18属26種がある。ニシン体長36cm、マイワシ24cm、カタクチイワシ15cm、ウルメイワシ25cm、コノシロ30cm、サッパ15cmなどが代表的である。イワシは魚体の大きさによって大羽イワシ(体長20cm以上)、ニタリイワシ(18-20cm)、中羽イワシ(15-18cm)、タツクリ(5-8cm)と呼ぶこともある。口の中の鰓でプランクトンを漉し取って生活しマイワシの場合、時速2キロ程度で1日26キロ動き回る。世界各地で、とれ外国産のものは種類が異なるものも多いようだ。

マイワシは大半が冬から春にかけて産卵し、1回に生み出す卵の数は体長20センチ前後の雌で3-5万粒といわれ、産卵期海中に数回に分けて産卵する。ふか直後から全長6ミリくらいまで漂流期、30ミリくらいまでのマシラス期、60ミリくらいまでの稚魚期(カエリ期)をへて約6ヵ月後にはタツクリ、ヒラコなどと呼ばれる幼魚期にはいる。ちなみにカタクチイワシの仔魚をシラスと呼び、幾分大きく、姿かたちがよいので高値で取引される。

群れをなして餌をもとめて南北に回遊する。銚子の漁師の話ではそれらを「上りイワシ」「下りイワシ」、ほかに「沖寄せもの」「浦回しイワシ」などと区別する。群れを成すのは群れの方が安全で遊泳エネルギーが少なくて住む、丈夫な仲間だけが選択的に集まれる、雌雄の出会いの場が広がる、などが理由であろうか。

マイワシの漁獲量がカタクチイワシ等にくらべて大きく変動する。その理由は気候や海況などの環境変化や人為的な乱獲も要因の一つだが、著者の結論は「マイワシ自身の質的変化」である。

「マイワシ固体郡は機が熟すると、環境好転を背景に生き残る。1972年級郡は突如卓越年級群になった。このようなひとつの卓越年級群がつぎの卓越年級群を生み出し、資源量は年々増加してゆく。資源量水準が高くなるとやがて餌不足が起り、成長や発育が遅れてくる。やがて極限に達すると、ちょっとした環境変化を背景に突如カタストロフィーが起こる。」(177p)