人民元改革と中国経済の近未来     榊原英資

著者の狙いが、この一冊を読めば、中国経済と人民元改革のポイントが理解できるようにしよう、ということだが、その点では成功しており、興味を持って読んだ。

「誤解だらけの人民元論争」:米国の要求で中国が人民元を切り上げても、米国の対中貿易赤字あるいは貿易削減に効果がなさそうだ、指摘する。アジアではハイテクなどの部品を供給する日本を中心に、国境を越えた生産ネットワークが形成されている。こうした中で切り上げても、輸入の元建てコストが下がり、輸出価格上昇分を吸収してしまう。一方切上げによる貧しい中国農民への影響が心配されるし、東アジアで唯一古典的な意味での主権国家たらんとする中国のメンツもあり、従って安易な妥協はしない。

「中国政府の決定メカニズム」:案外我々が知らない点をついている。最終決定機関は共産党で、国務院が中央官庁の意見具申等をもとに意見具申等をするという二元的な意思決定機構を持つ。日本と序列が一致しないために日中交渉でもややこしくなる。また中国は政策周期が5年、及び10年に1度変わる。次は2007年であることも忘れてはいけない。システムの問題点は独裁ではなく、固く組織されたビューロクラシーである。日本の党、政府の二元決定システムに似ており、問題は行政改革そのものである。

「動き出した人民元改革の未来」:温家宝がしめした「独立的な主体性」、「制御可能性」、「漸進主義」の原則は守ってゆくものと思われる。元を短期間に大幅に切り上げたり、抜本的に資本自由化を行う可能性は低い、と説く。そのような行為によって資本が逆流し、バブル崩壊、元の暴落といった事態の方がずっと恐ろしい。一方で遠い将来には共通通貨の可能性についても念頭にいれておく必要がある。

「中国経済の成長はどこまで続くのか」:現在は「原始資本主義」から「成熟した資本主義」への移行段階である。農業から製造業、第三次産業への人口の移動、産業構造の改革等をスムーズにすすめ、成長をはかる一方で 格差是正、効率の追求と調和をはかる必要がある。レベルでは日本の大正から昭和初期の段階に見えるが、世界経済のグローバル化の波が押し寄せており、三農問題などもかかえ移行は容易ではない。

「社会主義体制の残滓とその功罪」:株式市場を通じて個人の自由な企業の所有を認める方向には進んでいるが、まだ建前としての社会主義を捨てきれず、所有権が大きなハードルとなっている。金融制度も漸進的に改革が進められ、4大銀行の一部の株なども公開されたが、抜本的な自由化が行われていることでもない。

「中国の強さを支えているもの」:一つは華僑ネットワークである。東南アジアで経済的にきわめて強力な力をもち「大中華圏」を形成している。また過去の高成長によって生み出された新中産階級も強みで、一方で巨大な消費市場を作り出し、政治的には民主化の力ともなっている。

「中国共産党支配のリスク」:中国が国内政治の安定がカギで未来の理想は日本の55年体制のように反対派勢力は認めるものの、共産党支配はくずしたくない、との意向に見える。求められているのは行政改革によって政・官・業の癒着をなくすことである。共産党支配は当面ゆるがないものの、新中産階級の勃興にともなって、民主化や発言の自由は確実に進んでいる。プロレタリアート政党から国民政党へ脱皮しようとしている。

「迷走する日中関係の未来」:これらの視点にもとづきとして、これからの日中関係、対中国外交のありかたを考察している。靖国神社問題、教科書問題などを越えて中国・韓国との関係に力を注ぐべきである。
以上が主な内容であるが、最後の靖国神社問題、教科書問題はなるほ経済の立場から見ればそうだろうが、日本の伝統、中国もしきりに重視するメンツはどう考えればいいのか、と個人的には思った。

060307