鍵     谷崎 潤一郎


中央公論社ハードカバー

夫婦の日記を、夫のものはカタカナで、妻のものはひらがなで書き、交互に示しながら物語を進めている。
夫は56歳、妻を愛しているがどういうわけか最近あのことに疲れやすくなっている。週に一回くらいになった。そこで彼は密かに妻にもっと積極的に誘って欲しいと思うのだが、育ちのいい妻はなかなか答えてくれない。そういった思いを日記に書き、鍵をかけてしまい、場所も変えるのだが、反面、妻に見て欲しい気持ちもある。
妻の郁子は45歳、彼女も秘密で日記をつけているが、夫に読まれているかも知れないと恐れている。彼女はあのときに電灯をつけて自分をしげしげ眺めようとしたり、必要以上の遊技をしたがる夫の行為が嫌でたまらない。
彼らには敏子という娘がいる。彼女の伴侶にどうかと夫の後輩木村が足繁くやってくる。ところが二人はどうも会わず、木村は郁子に惹かれているようにも見える。
やがて木村にポラロイドを教えられた夫は、酔って人事不省になった妻の裸体写真を撮った。現像する段になって困惑し、結局木村に頼む。一方父の怪しげな様子に悩まされた娘は家をでて下宿を始める。夫の体力が弱って行く一方で、次第に木村と郁子は二人で行動するようになる。
そして4月17日、久しぶりに妻を求めた夫であったが、突然脳溢血で倒れてしまう。ロレツの廻らない無意味な声を出すのみで、生ぬるい液体がたらたらと妻の頬をぬらした。夫が涎を垂らしているのであった…・。
人間はなかなか本当のことを言ったり書いたりしないものである。その中で日記が一番真実に近いように思われる。その日記を通じて、中年の妻と夫の思い、行為等を良く描いている。棟方志功の魅力ある版画と共に大変楽しめた。

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