講談社文庫
「僕が小説を書こうとするとき、僕はあらゆる現実的マテリアル・・・そういうものがもしあればということだが・・・・を大きな鍋にいっしょくたに放り込んで原形が認められなくなるまで溶解し、しかるのちにそれを適当な形にちぎって使用する。小説というのは多かれ、少なかれそういうものである。・・・。」
としており、ここにあげた小説集はそれからもれたものである、としている。読者が期待する結末といったものは用意されていないが、抵抗なく読め、読み終わって「そういう話もあるか。」という気にさせる。
「レーダー・ホーゼン」
父と母は父の浮気癖がおさまったせいもあってどうにかうまく行くように見えた。ところが母は単独でドイツ旅行に行った後、夫の元に返らず離婚してしまった。その原因が父がおみやげに求めた半ズボン(レーダー・ホーゼン)にあったという。
「タクシーに乗った男」
「あなたがこれまで巡りあった中で一番衝撃的だったのはどんな絵ですか。」と聞かれて画廊の女主人はある無名画家の描いた「タクシーに乗った男」をあげた。・・・その絵を買って私は夜昼眺めていたために、彼はいつのまにか私にとっての分身のような存在になりました。そして何年か他って、私はアテネの乗り合いタクシーの中で彼に出会ったのです。
「今は亡き王女のために」
自分のことだけを真剣に考えることになれきっていた彼女。僕は彼女と奇妙な縁を持っていた。しかしずっとたってから、彼女の夫に聞いた話によると、彼女は子どもを失い、スポイルされ、苦しんでいるという。