21世紀に中心的役割を果たすといわれながら、金融工学はとかく難しい経済用語や数式が飛び交い、一般の人には理解しにくい。この書はやさしく、多くのエピソード等を交えながら、その要点を解き明かそう、との趣旨で書かれた。面白かったところを紹介してみよう。
金融工学を利用して金儲けをしようとは考えない方がよい。「ケイ線」等によって株価が予測できるというのは嘘で、情報が正しく反映されれば、株価はランダムに動く。「ある情報セットに関して市場が効率的」とは「その情報を市場が正しく価格に反映している」ということを意味する。市場が非効率的である場合に、特殊な情報を持っている人が、アブノーマル・リターンを期待できる。1815年のワーテルローの戦いでロスチャイルド家が大きな利益を受けた背景には非効率市場の存在が上げられる。それでも金融工学を学ぶ理由は(1)無駄な損失を回避する事ができる。(2)「だまされない」ために重要である。
金融工学のテーマは「リスク」である。単なる500万円の資産と、1年後に2分の1の確率で1000万円になるか、同様の確率でゼロになる資産の価値を考える。ここに「分散」という概念が導入される。人々は一般的には分散の少ない(この場合はない)資産を選ぶ。「費用の効用」は逓減的で、「人々が最大化するのは、期待効用であって期待費用ではない」リスクへの対抗手段として企業の取る手段は(1)製品の多角化、複数証券への分散投資(2)保険契約(3)危険資産の売却、先物契約など、があり、これらは「分散」と「移転」に分けられる。
分散投資の原理は「卵を一つの籠にいれるな」ということで、「ヴェニスの商人」にもその解が見られる。多数の無関係なものを集めるとリスクが低下するが、保険もこの原理を応用している。しかし分散投資には、「相互関係を考えながら、適切に組み合わせる」という異なる原理に従うものもある。たとえば株価が為替レートの変動に対応して逆向きに動く二つの会社への投資などがあげられる。リスクには市場全体の動きによって引き起こされるマーケットリスクと企業固有の事情で変わる「ユニーク・リスク」がある。株式投資では多数の株式を組み合わせてポートフォリオを作ることにより、ユニーク・リスクを減少させる。マルコビッツやトービンは、リスクを分散という形で定量化し、期待値のみでなくリスクを考慮して行う投資活動を提案し、経済学的に意味深いものに成長させた。
「先物取引」というのは「約束をして将来を固定する」経済的な取引では「将来取引する価格をあらかじめきめてしまう」ものである。「スワップ取引」、「為替のカバーとヘッジ」、「裁定とカラ売り」など様々なテクニックがある。単純な為替投資の場合では、外国債への投資=期首資産額*(1+国内金利)*(1+外国通貨の増価率)になり、これが自国債投資と同じにならなければならない。従って金利が日本より高い米国ドルを買う場合、ドルが減価しなければつりあわぬから、直物より安い価がつくことになる。
「オプション」というのは「イイトコドリ契約」である。たとえばA社の株式を1年後に一株1100円で1000株買う事ができる権利である。」もし3000円になれば190万円の利益を得られるが、500円であればオプションを実行しなければよい。このような権利の価格をどのように決定すべきか。コールオプションを複製することによって簡単に求められるやり方が紹介される。
最後に著者(野口悠起雄)はIT産業など新しいビジネスが次々に生まれているが、それらへの資金供給のためには、単に市場を設けるだけでは不十分、リスク管理のための技術が不可欠である、そのためには金融工学の発展が必要、と説く。コロンブスの新大陸発見、アジアの植民地化等にヨーロッパはリスクをとり、挑戦を続けた、これに対して近年の中国や社会主義経済下のロシアはそれを怠った。日本もそうなってはならぬ、とする。
070404