文春新書
友人が安保条約改定以来の経緯を「アメリカに隷属することを決めた日本」と書き、そのもとにこの書があるらしい、と知って読もうと思った。平成16年4月に上梓され、この4月ですでに16版を重ねているからそれなりに広く読まれているのだろう。
著者は1961年生まれ、慶応大学法学部卒業、東京銀行から国際協力銀行出向などの後、同行を退社、早稲田大学大学院理工学研究科修士課程を卒業している。
この書の見返しをそのまま引用すると
「建築基準法の改正や半世紀ぶりの商法大改正、公正取引委員会の規制強化、弁護士業の自由化や様々な司法改革・・・・・・。これらはすべてアメリカ政府が彼らの国益のために日本政府に要求させて実現させたもので、アメリカの公文書には実に率直にそう明記されている。近年の日米関係のこの不可解なルーツを探り、様々な分野で日本がアメリカに都合のいい社会に変えられてきた経緯を、アメリカの公文書に即して明快平易に描く」
1999年に米国と中国の間で建築家の資格制度を統一する国際協定が結ばれた。中身は現行アメリカでおこなわれているもの焼き直しだ。中国がこれを受け入れた背景にはWTO加盟問題があるようだ。しかしこれが「グローバルスタンダード」と、日本が、中国という巨大市場はもちろん国際市場全体から締め出される恐れがある。日本建築家資格は地震大国であるがゆえに構造設計に重きが置かれ、芸術主体で考える他国とは異なる。しかしアメリカのこのやり口には驚いてしまう。国益を追求して職業団体と政府が常に一体のプレーをするのだ。
日本では建築基準法が阪神淡路大震災を機に大改正された。しかしこれは米国の圧力に屈したもので、従来の「仕様規定」から米国流の「性能規定」に変更された。公表された「阪神淡路大震災対策」とは全く違う狙いがあったことに気づく。この結果をアメリカの公文書は「アメリカの木材供給業者のビジネス拡大チャンスにつながった。」と堂々と記している。
このように調べてゆくうちに米国政府は「年次改革要求書」を通して日本政府にさまざまな圧力をかけている事が分かる。その結果は3月に「外国貿易障壁報告書」の形で米国議会に報告されている。これらはもともとは1980年代後半、日本の貿易赤字に悩む米国が「日米構造協議」を通して始めた日本改造プログラムに始まる。「叫ぶのをやめてルールをかえよう」その交渉過程で日米は主権国家として対等な立場でない。
この話は過去の話ではなくブッシュ政権になっても変わっていない。2003年10月版にも「電源開発を民営化せよ、支配的電気通信事業者(NTTをさすらしい)に独禁法を適用できるようにせよ、郵政公社の民営化に外資系保険会社にも意見をいわせろ」など、ぎょっとするような言葉が並ぶ。
3章で会計の国際統一ルールと2002年の商法改正について述べている。ここでもまさにこの世は「アングロサクソンの楽園」であり、彼らのやりたい放題である。エンロン事件で見たように彼らの意会計システムに問題はあるが、時価会計のおしつけ、企業の監査制度、談合摘発、さらに彼等は公正取引委員会も自己の思うままに変えようとしている。日本企業は時価会計制度で破局においこまれるか、公正取引員会の不正摘発で系列が壊され、弱ったところをハゲタカファンドにねらわれるか、あるいは青い目の社外取締役に翻弄される・・・・そんなことにならないか。
それ以外にもう一つ、米国流の日本改造が進むと、「万人が訴訟する社会」が到来する。彼等は司法制度を改革させ、行政を監視させようとしている。日本の社会制度全体を「事前規制型社会」から「事後調整型社会」に変えようとしている。大体アメリカの法律は、イギリス流のコモンロー体系で、判例が判断基準となる。それに対してヨーロッパ大陸のもの、つまり主流はユステイニアヌス法やナポレオン法の伝統をもつ法律社会だ。全く異なるアメリカ流を押し付けられて「徹底した自由主義社会」になれば、どのようなことになるか、考えるだけでも恐ろしい。
最後に著者は「ブッシュ大統領のやり方に、ヨーロッパ大陸でも、イスラーム圏でも、地球には今、怨嗟の声が満ち満ちている。あこぎな競争に躍起となり、ひたすら勝つことばかりに血眼になっているあさましきアメリカ人よ・・・・・・」と威勢がよい。
読み終わって。事実はそれに近いのだけれども、日本もそれなりにしたたかだ、との見方も出来るようにも感じた。軍事的にはアメリカの傘の下にあり、経済的にもアメリカ経済とリンクしている日本としてはその影響を受けざるを得ない。しかもそのような外的刺激がないと己をなかなか変えようとしない日本であることもみな知っている。一方で影響受けながら、なお日本の都合のいいように変えているのも事実だ。その点で「隷属している」は、どう見ても言いすぎであるように感じた。日本に渡来した中国文化やキリスト教が、そのままの輸入を目指したにもかかわらず、結局は日本流に溶かして飲み下してしまったように・・・・・・・。そんなこと私は期待している。
061015