卍(まんじ)     谷崎 潤一郎

角川文庫

物語は、柿内園子の大阪弁による告白という形で進められる。会話まで地の文に取り入れた、長い文章で独特の雰囲気をだしている。

夫のある彼女は、美術スクールに通ううち、徳光光子の美に捕らえられ、同性愛関係に陥り、姉妹と呼び交わす中になる。

それを夫栄次郎に見つけられ叱責されるが、突然「男と一緒だが、着物を盗まれてどうにもならない。助けてくれ。」との電話。裏切られた思いで出かけると光子は綿貫栄次郎と一緒だった。夫との中を大切にするようになるが、今度は光子が妊娠騒ぎで飛び込んできてまたよりが戻ってしまう。

その後主人公は綿貫から「光子が自分と結婚しようとしないのはあなたとの同性愛のせいだ。」として誓約書を書かされたり、綿貫が性的不具者と判明したり、綿貫があの誓約書を夫のところに持ち込んですべてが発覚し、夫に監禁同然にされたりする。ようよう夫のもとを抜け出して光子と自殺しようとすると、今度は駆けつけた夫と光子がかんけいしてしまったり・・・・・私、光子、綿貫、夫の関係は次第に破滅に向かってゆく。

私と光子の同性愛、光子と綿貫の愛、私と夫の愛、夫と光子の関係が卍巴と交錯して退廃的な世界を描き出してゆく。正常な関係にある人間同士もいつこのようなことになるのかわからぬ、とでも行っているのだろうか。

・ 最初私は「夕方まで昼寝するさかい起こしたらあかん」云いつけて、夫にも電話で断っといて、寝室のドーア中から鍵かけて、窓から飛んで降りて逃げよ、と、そない考えましてんけど、外側が洋館の白壁になってて足がかりもあれしませんし、前の浜には仰山海水浴の人行てますし、そんな人目につくようなこと出来しませんよって、又相談しなおして、いっそのこと此処二三日大人しいにしてて、夫や家のものに油断さしてから、海い泳ぎに行くように見せて逃げ出してやろ云うことになりましてん。(158p)

(021124)