新潮文庫
遠い先祖の霊が鳥となって、戻ってくる南洋の島国、ナビダード民主共和国、人口わずかに7万人、マシアス・ギリは日本軍が進出した頃にさかのぼる強いパイプを背景にして、タマング大統領が突然の死をとげた後、大統領に返り咲き今日に至っている。政敵もなく、いかがわしいケンペー隊なども組織して政権は全く安泰に見えた。島はアメリカと日本がそれぞれ自分の勢力圏内に引き入れようと活動している。特に日本はブルン環礁に石油備蓄基地を作らせろ、とうるさい。
ところが最近奇妙なビラがはられ、さらには神社の鳥居が壊されるという事件が起きた。それに追い打ちをかけるように日本からの慰霊団47人を乗せたバスが忽然として消えてしまった。
善良な島民達のおしゃべりの間で噂がとびかう。バス・リポートなる怪しげな情報誌から妙な情報が流れ出す。そんな中、大統領の愛人アンジェリーナの経営する館での事件、何とも妙なホモ・フレンド、ケッチとヨールの存在、昔の英雄リー・ポーとの会話、日本から届く「鳥の友」なる差出人の忠告書等を通して、島の歴史、マシアス・ギリの過去、問題点等が次第に明らかになって行く。大統領またアンジェリーナのもとから引き抜いてきたエメリアナが妙に気になる。
この国は面積から言えばバルタサール島とガスパール島が拮抗しているが、精神的には遙か離れた小さいメルチョール島が中心である。その島では8年に一度ユーカユーマイの祭りが開かれる。エメリアナは自分がその祭りにおける第7位の巫女であると明かし、戻って行く。マシアスはその後を追って平服で彼女の後を追って行く。
その間にタマング大統領の死にまつわる謎が密かに明らかになって行く…。
この南のミニ国家には大統領府に都合の良い疑似民主主義が張り巡らされている。国民の意見を尊重するかのように見せる制度、対抗勢力に対する融和策と陰謀、「ケンペー隊」といういかがわしい組織の存在などがそれである。また大国はその大統領府を利用して自己勢力範囲内に組み入れようと躍起になっている。そのような状況と破局が描かれているが作品の意図はそれをはるかに越える者がある。
ミニ国家のドタバタを通して人間としては本来どうあるべきか、を説いている。
マシアスは優秀で純粋な青年であった。その資質を否定しているわけではない。彼の国家に対する思いも十分理解されている。しかし人間として守らねばならぬことが厳然として存在する。それを破った心の痛みがバスの蒸発、奇妙なビラ、鳥居の破壊になって現れた現象となって現れた、と解釈すべきもののようだ。
最後に巫女がマシアスに「あなたを尊敬しないことにきめました。」と宣言することによってマシアスが茫然自失し、自殺に走るという書き方もなるほどと頷かせる。
011101