福武書店 NIGHT WOMAN 垣内 雪江 訳
トランス状態で小説を書く大学教授ランドル・エリオットはいまや次期ピューリッツアー賞候補の呼び声高い話題の作家。しかし彼は精神障害で、作品はすべて妻のメアリーの書いた作品だった。ヨーロッパ家族旅行中に夫は病状が悪化し、ロンドンで治療を受け、やがて事故死する。メアリーはいまこそ自分が表に出たいと考える。
ランドルを尊敬しその伝記を書いていたポールはしばしばメアリーに取材するが、やがて恋に落ちて行く。しかしメアリーは死んだ夫をかばい、真実をかたらず、一方メアリーが本当の作家となっては都合の悪いポールは真実を見ようとしない。二人は米国に戻って結婚するが溝はだんだんに深まって行く。
そしてイタリアでの新作発表会のおりに対立は頂点に達し、ポールはメアリーを殺そうとさえする。今や売り出しに成功したメアリーは静かに去って行く・・・・。
主題は「ある平凡な主婦の自立」とでも言うのだろうか、まとまりの良い小説ではある。登場人物もそれぞれに個性を持ち、いささかセンチメンタルな書き方ながら、主人公の悩みも分からないではない。しかし次のような点も同時に気になった。
(1)最初の夫の精神障害の記述はどうも主人公の考え方がはっきりしない。憎んでいるのか、愛しているのか、抱かれたいのか、スタンスが揺れ動いているように見える。
(2)後半のポールとの恋愛はいかにもセンチメンタルな書き方だ。彼女がどうしてポールに惹かれたのか、ポールと彼女のランドルについてのつっこんだ話し合いはなかったのか、など疑問の残る書き方だ。
(3)パリ、ミラノ、ローマ、コモ湖と観光の記述が豊富だが、記述はなでただけと言う感じで、現地での個人の体験が伝わってこない。物語としても平板で、シドニー・シェルダン作品などと比べると見劣りがする。
(4)訳者はこれを「サスペンス小説」と位置づけているけれども、サスペンス度?はあまり高くない。ウールリッチの作品などと比べると大きな差だ。
(5)ピューリッツア賞候補作品を書くための苦労が、もっと記述されていていいと思う。
・作曲家の伝記が書かれたことなんかあった?作家の伝記は?・・・彼らの著作や彫像や交響曲が、作り手を代弁しているわ。それで十分なのよ。(291p)
・わたしもやったことがある・・・他人の作品からある場面のみを取り出し、解体して、その骨子と感じを使用するんだ・・・ナヴァホ族の織物みたいね。(474p)
・何年も一緒に暮らしてきたのに、あなたは私の本の中に私を見つけることが出来なかったのよ!(480p)