日本の危機         櫻井 よしこ


新潮社

現在日本が抱えている病理を、偏った見方をすることなく、丁寧に調べ実に上手に分析している。以下、やや長くなるが簡単な章ごとのまとめと、気のついた文章の引用。
第1章 誰も止められない国民医療費の巨大化
すでに総額二十八兆円を超えた国民医療費は、毎年一兆円づつ増え続けている。二十八兆円と言えば国家予算全体のおよそ三分の一に相当する。医療に哲学がなく、企業と癒着した厚生省のミスリードによる高い薬価設定が特に問題である。
・薬価を決めるのは中央社会保険医療協議会(中医協)ですが、厚生大臣のときにも、ここには手を入れることが出来ませんでした。(菅直人)(11p)
第2章 年金資金を食い潰す官僚の無責任
官僚は、採算の見通しのない施設や高速道路を作るなど、年金資金を食いつぶしており、破綻は近い。責任を転嫁するかのように、彼らは国民全体の老齢化に伴い、保険料率のUPや、支給額の減少を国民に提案している。
第3章 国民の知らない地方自治体「大借金」の惨状
補助金と地方交付税の甘い組み合わせの中で、自治体の借金は増え、破綻しているものが多い。その過程で中央省庁の企画にあわせることだけ身につけ、自分の頭で考えることをしなかった。住民の工夫が繁栄されない。
第4章 族議員に壟断された郵政民営化の壊滅
小泉氏も言うように郵政事業は民営化すべきだ、もっと安い料金で充分サービスを維持できる。しかし全国特定郵便局長会、膨大な特別会計(260兆円)を持つ郵政省、族議員がこれを潰している。
・震災で捨てられた郵便物(49p)
第5章 大新聞が絶対書かない「拡販」の大罪
再販制度があるから販売店を酷使しても本社だけ、儲かる。こんな制度はやめるべきだ。新聞社は読者の知的ニーズに応え、優れた情報と言論を提供することで支えられるべき物なのに、日本の新聞は「経営=部数の維持」を軸に旧制度の維持に汲々としているのだ。
・朝日新聞は、満州事変のときには、当初粛軍ムードだった朝日に対し在郷軍人会が不買運動を起したのです。慌てた朝日は内部では販売が主導権を握り、毎日と同じく戦争讃歌の論調になったのです。(桂教授)(66p)
第6章 沖縄問題で地元紙報道の大疑問
北海道新聞の函館新聞夕刊発行問題対応処置は強烈だ。独占している地方紙はその地域で王者となっている。そんな時基地賛成派の言動はあえて報道せず、反対論のみかかげる地元紙の報動体制は疑問である。なんと編集局長が一坪地主である。
第7章 朝日新聞「人権報道」に疑義あり
人権主義にのみ走り、御都合主義の朝日の報動体制は疑問だ。
・朝日は、従軍慰安婦問題だけでなく、カンボジアのポル・ポト革命を「アジア的な優しさにあふれた」革命と報じたことも、中国の文革を理想への革命の道とほめあげたことも訂正していない。(99p)
第8章 税制の歪みが日本を不幸にしている
税率が高い上に、金持ちは悪だ、と言わんばかりに所得に累進して高まる所得税制が問題だ。法人税も同じでこれを直さなければ日本は滅びる。ところが、定年後いくつもの組織を渡り歩く役人に都合が良いように、退職金の税率は低い。
・ 日本は贈与された側に申告義務、アメリカでは贈与した側に申告義務、アメリカに子会社を作り子供をそこの従業員にします。親名義でアメリカに口座を作り、同口座に財産を移し、それを子供に贈与するのです。(104p)
・ 日本の官僚はタカリ集団です。それを可能にしているのが、400兆円を越す財政投融資です。財投で特殊法人や関連法人を沢山作って。(110p)
第9章 中国の掌で踊る日本外交のお粗末
中国のねらいは日本のハイテクと経済力だけだ。日本を知り尽くし、日本を馬鹿にすらしている。そんな状況なのに核実験を繰り返す中国政府に抗議の一つしない政府、アメリカの軍事演習を「砲艦外交」と論じる新聞等日本のスタンスを疑わざるを得ない。
・ 「やがて中国との闘いがはじまる」(アメリカで発行された本のタイトル)(115p)
・ 日本は独自の対中外交なんてやったことがないのです。国交正常化もガイドライン問題も全て、アメリカの戦略の中での事。(対中専門家)(128p)
第10章 教育荒廃の元凶は親と日教組にあり
はき違えた自由と権利だけが、強調され、学校が教育の場としての機能を失い、一方でエゴのみしかない親の態度が教育の荒廃を招いている。
・教師と生徒は人間として対等です。しかし教師は指導者であり先輩ですから上下関係はあるのです。今は教師が子供を怖がっている、だから人間関係が出来ないのですよ。(槙枝元文)(138p)
第11章 母性はなぜ喪失したか
子供を嫌う、あるいは暴力を振るう親が目立つ。大半の親は、社会の事も家族の事も分からない核家族の中、母子超密着型で育児に専念する。その結果、手のかけすぎベビーや反応しないサイレントベビーが増えている。母性は生まれながらに存在するものではない。母性を育てる必要性を男性も、社会も認識すべきである。
・ 母親は子供を生みますが、生まれながらの母性本能などは持っていない(大日向氏)(145p)
・ 男性が過酷な職場を下りたら妻子を養えないから歯を食いしばって頑張るように、かっての女性は家庭を下りたら生きていけませんでしたから。(大日向氏)(147p)
・ サイレントベビー、「人生はなんとなくいいもんだ」という感受性(150p)
第12章 少子化は国を滅ぼす
子供が消費財として認識されるようになり、出生率が低下した。その上結婚しても得にならぬから大シングル時代が到来しようとしている。税制を変える、婚外子も平等に受け入れる、育児後の女性の職場復帰を容易にするなどの改革が必要だ。
・ このままいくと、百年後の総人口は、現在の一億二千五百万余から六千万人に、二百年後には一千万人に減り、江戸時代の三分の一になるという予測だ。(154p)
・ 税制は働く女性にこそ、もっと優しくなければならない。(164p)
第13章 農協は農民の味方か敵か
農協職員35万人、資産70兆円、この巨大な組織が日本の農業の進歩を妨げている。価格を統制し、新規の農業希望者を敬遠し、意に添わぬものはつまはじきにしている。そして今不良債権10兆円。
・株式会社の農地取得を許可すべきである。(177p)
第14章 国民の声を聞かない官僚の法律づくり
法律は大半が官僚によって官僚の都合の良いように作られている。識者の声を聞くと専門家会議など開きながら、実際には自分たちの都合に合わせて変えてしまう。誰のための法律なのか!
第15章 スピード裁判なぜできない
裁判官一人当たり300件、これではまともな裁判など出来るわけがない。閉鎖性から来る裁判官の人格欠如、その結果起る常識はずれの判決なども問題だ。司法改革は是非必要だが、裁判官を増やすと言う案はいつも日弁連等の既得権益に潰される。
・負けるべき裁判で勝ってはならない。有罪であるべき事件を無理に無罪にしてはならない。無罪と無実は違うと言うことを正しく伝えなければならない。(ある弁護士の反省)(203p)
第16章 政治の無関心があなたの利益を損なう
政治不信が蔓延している。しかしそれが何をもたらすか国民は認識しなければならない。ドイツはワイマール共和国の失敗からそれを学んでいるようだ。
・ 議員作成法案は、一年に三十数件、カリフォルニア州の議員一人が手がける法案の数より少ない。(208p)
・ ブラックボックスに隠された財源・・・・地方交付税(213p)
・ 日本人は民主主義における改革は、選挙を通じてしか出来ないことに気付いていないのではないか。(215p)
・ ドイツは戦後、憲法を四十三回改正しました。ドイツの憲法は、日本の憲法が権利ばかり強調しているのと対照的に、義務を強調しています。
第17章 人権を弄ぶ人権派の罪
ダブルスタンダードで正義を論じる人権主義者がはびこっている。しかもこれが教育の場に持ち込まれている。裁判でも人権が人権を欺く構造が力をえ、シンナー少年の写真入報道の名誉毀損裁判では少年に60人もの弁護士がついた。
・自らを「権力を持たないもの」と位置づけて、特定の人間のメッセージを消すのは「逆権力」の行使ではないのか。(223p)
第18章 今、女性は輝いているか、自立しているか
性体験だけ豊富で「個性」も「自立」もない若い女性が増えている。彼女たちを突き動かすのは購買意欲だけで、幸せとは何もかけていない状況!あまりにも与えられて育てられた結果である。こんな社会は異常だということに気がつかなければならない。
・ 主婦システムをやめない限り、日本の女性に究極の自立はないのです。(233p)
・ 日本人の理性や良心に対座する神はない。日本人の理性や良心は、共同体の監視の中にあったのだ。それが今、大きく崩れている。赤信号も皆で渡れば恐くない。(241p)
・ 自らを相対化し、客観視することなしには、男女ともに自己責任など果たせはしない。(243p)
第19章 優柔不断な青白い官僚たち
皆が責任をとるふりをしながら誰も責任をとらない体質が問題だ。物言わぬ人々が勝ち残って行く。しかし批判が徐々に沸き上がってきている。
・ 大正九年の反動恐慌のおりも、昭和の金融恐慌のおりも、いずれも銀行倒産の事態になった時、経営者はおろか、支店長までもが私財を擲って処理にあたりました。(248p)
・ 自分で責任を取りたくないという日本人の甘え(252p)
第20章 事実へのこだわりを忘れた大メデイア
記者クラブに依存した今の大手ジャーナリズムでは事の本質は掴めない。自分の力で判断し、事実を追求するという、戦うアプローチをしてはじめて、新聞が目的とする人権や正義も守ることが出来るのだ。
・目前の役割を果たすことのみに力を注いで、結果として何がニュースなのか判断能力が落ちていくのです(260p)
第21章 闘いを忘れた脆弱な国民性
香川県豊島産廃場建設問題は、小さな暴力に屈することがどんな結果をもたらすかを教えた。岐阜県御嵩町のケースは、力に屈しない勇気が必要だと言うことを教えてくれる。Rightは権利と訳されるが、本来は正義と言う意味だ。まず悪とは手を結ばぬと決心しなければいけない。
・暴力はなぜ強いか、第一に暴力に対座する法が追いつかないからです。(276p)
・日本国全体が暴力に対する管理の仕方が甘いのです。全国民が悪いのです。(277p)
001031