肉体百科    群ようこ

新潮文庫

目次をみて「あ、なるほど!」と思った。

エッセイというのは何をテーマに書くのか結構悩むものである。100近くのエッセイが載っているのだが、タイトルは体の部分やそれに関連した用語である。

太もも、性器、歯、眉毛、肛門、まぶた、胃袋、子宮、皮膚、まつげ、爪、足、尻、膝、腹、おでこ、頭、首、乳房・・・・不思議なことに顔というのがなかった。

おまえも肉体か?というようなものもある。

垢、しもやけ、わきが、エネルギー、おなら、くしゃみ、涙、鼻水、冷え性等々

考えてみるとこういうものに対する思い入れは人間誰しも持っている。だから何かしらは書けるわけだ。読むほうもなにかしら関心があるから読んでみよう、という気にもなるに違いない。だからこのテーマの選び方に感心し、なるほどと思ったのである。

全体として、そもそも女性というのは男と違ってずいぶんこういった部分に関心をもつものだ、とあらためて驚いた。著者の体への関心が私の何倍もあるからなのか、聞いたことのないような部分までテーマとして取り上げている。

ぼんのくぼ、ミドルヒップ、臥蚕涙堂

ぼんのくぼというのは頭と首の境目の部分のことらしい。必殺仕掛人にでてくる延髄のあたりなのだろうか。あそこにぶすりとやれば人が殺せる?

ミドルヒップというのはウエストとヒップの中間のことで、中年になるとここが太くなってくるのだそうだ。

臥蚕涙堂は著者も知らなかったらしいが、ガサンルイドウと読み、目の下のふくらみのことだそうで、これがない女性は、女性ホルモン不十分で色気が感じられないとか。男にはそんなものがあろうがなかろうが関係ありそうもない。

興味のあるものいくつかを丁寧に読んでみた。肩のこらない書き方である。テーマをさりげない自分の経験などをもとにうまくふくらませ、最後のオチで読者をにやっとさせるところはさすがである。「子宮」などふきだしてしまった。

「今はシステムエンジニアの弟は小さいときから機械やプラモデルがすきだった。あるとき父親の洋書に掲載されていた人体模型がほしいと言い出した。売っているデパートを探し当て、両親と訪ねると透明なプラスチックの模型だった。ところが「女性もございますが・・・。」と店員が持ってきたものは子宮に胎児が入っていてしかも取り外せるのである。弟はすっかり気に入って、困った両親が「やっぱり男の子は、男の人のほうにしましょうね。」と説得するが聞かない。おげくのはて「この、おまけのついているほうじゃなきゃ、嫌だあ。」と大声で泣き出し、両親と店員を困らせた。」

子宮というつい真剣になりがちなテーマを、経験にもとづいて想像をふくらませ、このようにはすかいに捉えたところが面白い。それに最後のオチも利いている。

この作品は夕刊フジに平成2年10月から3年2月にかけて連載された。著者は昭和29年うまれだから、36歳か7歳のときの作品ということになる。女ざかりだが、もうお肌は曲がり角を越し、あとは下るばかり、しかしまだみずみずしさもたたえている、そういう年齢ではないかと推察する。読みながら、だからこういう見方になるのか、と考えた。

020820