新潮文庫
この小説集は戦後すぐに書かれたものらしい。長い間の戦争の苦しみ、その結果の敗戦、焦土と化した日本は、混沌の中にのたうち、現実はあまりにも暗い。そんな中で悪の花が咲き誇り、個人の尊重、自由という新しい理念さえゆがめられる。
そんな中文学を捨てて8年、一兵として生き、苦しんだ作者が、人間の赤裸々な姿を知り、復員してきた。そして今までの鬱憤をはらすがごとく、「肉体の門」、「肉体の悪魔」などを著した。彼は今までの日本人は、人間の自覚や個人の尊厳を西洋の真似で考えてきた。そういうものをぶちこわして人間の本体を掴み、その上で人間性を考えるべきだ、と考えた。
そして具体的には「肉体という言葉で代表されるわれわれの具体的な生き方と行動、そういうものの意味を通して精神的なものを探求しなければならない。」とした。(以上北条誠の巻末解説より)
肉体の悪魔
北支を転戦していた私は、俘虜のきみをみつけ、一目で惹かれてしまった。きみは見るからに気位の高そうな顔つきをし、反日に凝り固まっていた。慰問劇団で使うことに失敗した。きみは私の元で働くことになり、やがて私と関係が出来てしまった…・。
女盗記
わたしはナイチンお三枝、わたしと小田雄三の関係は古いのよ。北支の野戦病院で看護婦だった私は、傷病兵の彼と知り合ったのだけれど、神聖すぎて近づけなかった。そして軍曹に身を任せたり、敗戦で日本に戻って悪の道にそまり、多くの男と関係するなど汚れに汚れた。そしてやっと小田さんにあったのよ。小田さんが強盗だなんて絶対嘘に決まっているわ。
霧
曽根平吉は牟田丹後とともに津雲なみ子、瀬田光子とあったが、瀬田にひどく惹かれた。牟田も瀬田を好きだったが、安全を考えて津雲を選んだ。しかし瀬田は面白くない。曽根も、また愛を打ち明ける勇気がなかなかでない。
・兵隊は女に飢えていた、…・倫理とか、道徳とか、そんなものは、明日死ぬかも知れぬ者にとって、何の役にたちますか。(135p)
「街の天使」系譜
略
男禁制
足かけ4年モダンダンサーをした江坂多美は、足を洗って美容室で勤め始めた。八木まさと同室で住み込み勤務し、過去の経験から男禁制を誓ったつもりで、昔の男大原が現れた時も断ったが…・。
鳩の街草話
生活がどうにもこうにも苦しくなって小倉時夫は女房の登代を売ることになったが…・。
肉体の門
小政のせん、ボルネオ・マヤ、菊間街子、ふうてんお六、ジープのお美乃、彼女たちは何でもする獣のような不良女グループ。菊間街子が金を取らずに男と関係したと見るや、リンチして追い出してしまった。このグループに伊吹新太郎が入り込んできた。ボルネオ・マヤが関係したが、発覚して…・。
020510