講談社
37歳になった僕が18のときの恋とその不幸な結末を思い出す、という書き方を取っている。青春時代の悩みが正直によく描けている作品と思う。作者はさらりとした恋愛小説を書いてみたいくらいの軽い気持ちで取り組んだらしいが、小説が書かれることを望んでいたのかなかなか重い考えさせる作品に仕上がっている。
キズキ君と直子は愛し合っていた。僕は直子と高校時代からの知り合いだったこともあって、二人と親しくなり、三人でデートをしたりした。ところがある日突然キズキ君がじさつしてしまった。理由は思い当たらない。僕は直子と親しくなり、深い関係になったが、彼女はキズキ君の自殺から完全には立ち直れないようだった。
大学で一緒に授業を受けていた小林緑が、彼女は恋人がいるのに僕に激しく接近してきた。僕は彼女に言わせると悩みを打ち明けやすいタイプなのだそうだ。そのころ寮で同質だった永沢先輩は一緒に女をあさりに行くなどいろいろ教えてくれた。おかげで僕は人間的にずいぶん幅が広くなったように思う。
直子が突然僕の前から消えた。何か重い精神的な病気にかかって京都の病院に入院しているという。訪ねてみるとレイコというお姉さんと一緒だった。愛しあって分かれるがレイコさんから「直子に手紙を書いてあげて。」と頼まれ書き続ける。
直子の病気はだんだんひどくなる様子だった。緑は時には狂ったように私を求める。むろん私も好意を持たないわけではない・・・・・。
・結局のところ・・・と僕は思う・・・文章という不完全な容器に盛ることが出来るのは不完全な記憶や不完全な想いでしかないのだ。(上18p)
・ 死は生の対極としてではなく、その一部として存在している。(上46p)
・ ドストエフスキイが賭博について書いたものがあったろう。あれと同じだよ。つまりさ、可能性が回りに満ちているときに、それをやり過ごして通り過ぎるというのは大変に難しいことなんだ。(上64p)
・ 彼らは出席不足で単位を落とすのが恐いのだ。そんな連中が大学解体を叫んでいたのかと思うとおかしくて仕方がなかった。(上88p)
・ 他の人が書かないようなことをちょっと盛り込んでおけばいいのよ。・・・すごく感心したりしてね。仕事を回してくれるのよ。(上116p)
・ かえって逆に年齢を超越した若々しさのようなものがしわによって強調されていた。その詩話はまるで生まれたときからそこにあったんだといわんばかりに彼女の顔によくなじんでいた(上171p)
・ そしてたたかれることを知らないまま、人間形成に必要なある要素を落っことしてしまうの。これ悲劇よね。(下10p)
・ 庶民よ。でも世の中を支えているのは庶民だし、搾取されてるのは庶民じゃない、庶民にわからない言葉を振り回して何が革命よ、何が社会変革よ!(下58p)
・ 「自分に同情するな」と彼は言った。「自分に同情するのは下劣な人間のやることだ」(下167p)
・ そこでは死とは生を構成する多くの要因のうちの一つでしかなかった。直子は死を含んだままそこで生き続けていた。そして彼女は僕にこういった「大丈夫よ、ワタナベ君、それはただの死よ。気にしないで」と。(下222p)
030304