中公文庫
保名隆盛と春子を頼って、はるばるフランスからナポレオンの孫と称するガストン・ボナパルトがやってきた。どういう人かと心躍らせるが、大きなウマヅラの大食漢、春子は思わず馬を思い浮かべた。
保名家に寄宿するようになったが、何の目的で日本に来たのかもはっきりせず、ぶらぶらしているだけ。新宿の裏通りに三人で飲みに行った。いかがわしい写真売りに難癖をつけられたが、ガストンは殴られながらた隆盛と春子をかばった。二人は逃げ帰った。その事件があって、ガストンは保名家を出ていった。
捨て犬ナポレオンと今宵の宿を求めてとぼとぼ歩きながら、連れ込み旅館で売春婦を助ける。その世話で世捨て人のような占い師蜩亭老人のもとに転がり込む。ところが蜩亭老人が目を離した隙に、ガストンはやくざ風の男に連れ去られた。労咳もちのインテリやくざ遠藤で、懐にコルトを持ち、自分の父を戦争中にだました金井と、小林を追っている。しかし、ガストンはしきりに殺人はイケナイ事とあきらめさせようとする。遠藤が金井を拉致、いざ殺そうとすると銃の弾が出ない。ガストンが抜いておいたのだ。
遠藤は、今度は小林を追って山形に向かう。なぜか見捨てられない遠藤を追って、ガストンもまた山形に向かう。更にガストンの行方を心配した隆盛と春子も・・・・。不動産屋をやっている小林、銃を手にした遠藤、それにガストンが銀塊が埋めてあるという大沼に向かう。不意に小林がシャベルを振り回して遠藤に襲いかかった。必死にとめるガストン。小林は、なんだか気味が悪くなって逃げ出した。遠藤は傷をして意識を失っていた。
やがて遠藤は助けられるが、ガストンの行方は杳として知れなかった。隆盛と春子は、ガストンに去られて始めてその人の良さを認識する思いだった。
主人公のガストンに心の途方も無い大きさを感じさせる。キリストの本来の姿を求めながら、人間とは本来どういう風にあったらよいか、を探求した作品のようだ。そして同時に作者自身が求めた人間像であったのではないかと思う。
一方でこの作品はなかなかユーモアに富んでいる。いたずらっけがある。その上、物語として非常に面白く出来ている。行動をつい欲得、利害で合理的にのみ考えようとする若い人に一読を薦めたい作品である。
000607