講談社文庫
江戸時代というと、普通切り捨て御免、一揆、飢饉、鎖国、圧政、キリシタン弾圧などの言葉を思い浮かべないだろうか。これは明治政府は一種のクーデター政権だから旧政府の悪をあげつらい、第二次大戦後は古い野蛮な風習としてなお悪く教えて、欧米を正しいとする方針をとったからに他ならない。
しかしアメリカも社会主義も理想的と言うにはほど遠い社会らしいとわかった今日、江戸時代を見返してみると必ずしも悪い面だけではなかったように見える。われわれはとかく現在の価値観だけが正しいと考えがちだが、もしそうなら人類の過去はほとんどすべてが間違っていたことになる。そのような考え方では過去の歴史を正当に評価することは出来ない。そこでもしわれわれが江戸時代に転がり込んだとすればどんなことを見るだろう、との観点で、豊富な資料を提示しながらやさしく解き明かしているのが本書である。図表が多いことも非常に楽しく、現在の日本橋が江戸時代はこうだったなどと想像できるのもうれしい。
ポイントのうちのいくつかをあげると
(1) 幕府の基本方針には「権あるものには禄うすく、禄あるものには権うすく…。」というものがあった。武士階級は権力を握っていた代わりに経済的な力は弱かった。
(2) 捕物帖を見ると強盗や殺人があちらでも、こちらでもおこっておいたようだが犯罪率は驚くほど低かった。殺人事件などせいぜい1年に1度あるかないかくらい。そのため江戸の治安の為の奉行所の役人(警察官)はわずか24人だった、とさえ考えられる。
(3) 町年寄、町名主、家主などの町役人が区役所的機能を果たしていたため(2)が可能になった。
(4) 参勤交代は言葉が統一される、経済的な平等と活性化が促される、開放的になるなど良い面も強かった。
(5) 便利不便は比較の問題だが、地方から見た場合、江戸はひどく便利が良かった。
(6) 上水道は自然式であるが行き渡っていた。下水道はくみ取り式であったが、循環型社会の形成に貢献しており、欧米流の下水方式とくらべて良い点も多かった。
(7) 学校教育には皆熱心だった。
などがあげられる。
現代文明は石油や石炭という有限な資源を消費し、ばく進しているが、限界があることは明らかだ。その後よほどの技術革新が無い限り、循環型社会に戻らざるを得ない。つまり江戸時代である。その意味でこの書は非常に参考になると感じた。
011101