荻窪風土記          井伏 鱒二


新潮文庫

荻窪に住んだ著者の体験談集。決して系統だって、書かれているわけではない、それでいて古老の昔話を聞いているような気分になり、自然に引き込まれて行くのはやはり作者の力量によるのだと思う。特に荻窪は私自身50年以上住んでいるところであり、思い出が多く、それと重なっていっそう興味深く感じた次第。
荻窪八丁通り
関東大震災前は品川の岸壁を出る汽船の音が荻窪まで聞こえた。荻窪名物漬物大根と野菜を京橋のヤッチャ場へ売りに行く話。鳴子坂下の立ちん坊。昭和はじめ蹄鉄屋の話。石地蔵。千川用水で釣りをした話。
関東大震災前後
三日三晩燃えた関東大震災。中央線が立川まで来ると聞き東京退散を決意。高円寺の夜警団。
震災避難民
線路道を伝って立川へ。各駅での差し入れ、福山へ。小島徳弥の「焦土だより」。このころ、横光利一売れること。(日輪、蠅)二ヶ月で東京へ。沢正の炊き出しの話。
平野屋酒店
千川用水追分けの平野屋に下宿(公正堂)。東堂君に紹介された大工を使って家を建てる藻、騙されたこと。アルバイトの事。
文学青年窶れ
神近市子と関係があるように思われたこと。阿佐ヶ谷駅誘致に古谷代議士が活躍し、それが縁でパールセンター通りが出来たこと。
天沼の弁天通り
神戸雄一君のこと。杉並の歴史と地名の由来。伊馬君が売れたが、悩みが多かったこと。彼の望月雄子との結婚話。「君、おおいにやりたまえ。恋は目より入り、酒は口よりはいる。親孝行なんか、暇が出来てから後で、ゆっくりやれば良いんだ。」
阿佐ヶ谷将棋会
将棋会から文芸懇話会へ。八幡通りは美人横町(軍人はメンクイ)プラーゲの引き起こした翻訳権論争。鶴川にハヤを釣りに行った話。
続・阿佐ヶ谷将棋会
召集令状を受けたが軍服が足りなくて帰された青柳君の話。軍隊に徴用された話。「ぶった切って見ろ!」発言と「お前たちのような非国民ははじめてみた」の髭隊長。怪童丸と海音寺潮五郎。
ニ・二六事件の頃
青柳・田畑両君と能面。渡辺大将の最後。これ以来私は兵隊がこわくなった。
善福寺川
なぜ鮎を放流しなかったのだろう。ガード際の洗い場でハヤを狙う。太宰治とつりと自作原稿。ナターリアさん、キッスしましょう。
外村繁のこと
嫁さんを紹介されたお父さんの一言「別嬪やなあ。」
阿佐ヶ谷の釣具屋
林房雄「日本は途方もない大計画で満州に新国家を建設しているが、実相は夢幻だけのことで仮装の国づくりに夢中になっている。」沢山あった釣具屋。佐藤垢石に鮎釣りを習ったこと。東京の山女竿1号。
町内の植木屋
木遣音頭のあり方。高井戸内藤家の火事。和田新田の火薬庫。善福寺川流域は鉄砲の狩猟が禁じられていた。森が伐採を免れる。井の頭狸の腹鼓と鯉つり。
病気入院
昭和8年猩紅熱で入院。小林多喜二警察で殺される。太宰のインバネス質入れ。太宰にとって学校に行くことは浮き世の義理。「君は学校に来なかったようだから、フランス文学についての質問はやめておく。ここにいる三人の先生の名前を言ってもらいたい。」
小山清の孤独
「木靴」の編集に熱心。能力はあったが赤貧の内に死ぬ。
荻窪(三毛猫のこと)
俊敏な三毛猫と蝮の争い。雄猫をもてあそぶうちの猫。猫の入院「うちでは、文芸家教会の健康保険に入っています。」。老けた猫。
荻窪(七賢人の会)
モデルのオンリーさん。おかめで飲み助懇親会。横光の一周忌。七賢人の会。宝来屋さんの最後。(カナダの医者、日本の医者)元井萩村人口:昭和2年1.5万人 52年15万人。牛コロシの木。