文春文庫
「犯罪者は陰の隣人です。この隣人をして、思う存分かたらせる方法はないか。行為としての殺人よりも、それにいたる経過や日常を語らせてみたいんです。」の観点で実際にあった事件を解説している。何か小説のヒントが得られないかと読んだが、実際の事件はなんと泥臭いものか。
醒めた友情
東京上野。親父の代から、この店には商売で泣かされたと、相棒を誘い、消化器販売一家を惨殺した事件。犯人は犯罪を誇示するつもりか、わざわざ証拠を残して現場を立ち去った。
日曜日の残酷
岐阜県各務原市。飯場の作業員三人が河原のアベックを襲い、男を殺した後、女を輪姦、殺害。翌日現場監督が到着するのを待って死体を埋めたが、現場監督が通報。主犯は死刑だが、裁判で現場監督は起訴便宜主義の考えから起訴猶予となった。
虚構の花嫁
茨城県那珂美和村。結婚式を明日に控えた男(農家)が路上で殴殺されていた。実は金に困っていた仲人は、行きがかり上虚構の花嫁をこしらえ、結納金などを詐欺した。最後は実は相手がいないことを告白したが許してもらえず、思いあまって殺してしまった。関係のない女性を、私が仲介する婚約者として、男にデートさせた話が面白い。
天使の当惑
電気工は早大卒と偽って、鳥取県から出てきた衛生検査技士の女性と婚約したが、身元調査で発覚。別れ話の上「中卒の百姓上がり」とあざけられ、絞殺、死体を川に捨てた。
・ホステス専業の女性が衛生検査技師になることは出来ないけれども、臨床検査技師でもいきなりホステスになれる点に、我々は注目すべきだろう。(53P)
歳上の女
群馬県松井田。詐欺罪で逮捕されたパチンカー男に関する尋問で、妹は、姉の失踪に疑いを持つ。捜査をしたところ、彼女を殺し、死体を切断し、背負い籠で運び出して自分の畑に埋めたことを自供。さらにその数年前にもアメリカ帰りの女性を同様の方法で殺していたことが発覚。男は、昔兄嫁を寝取ったが、彼女が献身的に働く分、ぶらぶらし、悪事を重ねていたのだった。
饒舌なる詩人
群馬県前橋市。4年1ヶ月の刑期を終えて出てきた男に妻は冷たい。商売用として借りたクーペを乗り回し、詩人を気取った男は、次々と女をハント、そして都合が悪くなると殺していた。「米を分けてくれるところを教える」と女を次々と殺した小平をほうふつとさせる大久保について記述。
巡礼いそぎ旅
広域一〇五号事件。警察庁中心。対馬の出身者で子供の時からのワル。男は、最初の殺人事件で若い男がすでに逮捕、処刑されていたため、従犯と主張し、短い刑期で出所した。以後一人暮らしの廃品回収業者を次々におそって、金品を強奪した。
神聖なる屍蝋
大阪府。アパートに放置された荷物から異臭、調べてみるとブリキの箱に屍蝋化した女の死体。おっとりした男はバーの女と一緒になり、金を借りたが、返済を迫られ、殺したものだった。それにしても二年半死体を持ち歩き、しかもその間に別の女と結婚していたと言うのは驚きである。
真夜中の実験室
二十年以上一緒だった妻が、練炭で保温されたシイタケ栽培用のビニールハウスで死亡。一酸化炭素中毒死とされ、保険金が下りたが、高額のため疑われた。実は純粋な一酸化炭素を製造した。(方法不明)妻と一緒に防毒マスクをつけて、ビニールハウスに入ったが、妻の物には一酸化炭素入りの風船を取り付け、逆流させた。
・保険金詐欺事件
夢の島情話
二十年以上一緒だった妻の不貞を知った韓国人の話。自動車解体業をしていた犯人は妻を突然冷凍車に閉じこめ、尋ねてきた浮気相手を改造びょう撃ち銃で射殺、死体を新夢の島に埋め、乗ってきた自動車は酸素で焼き、くず屋に売り払った。
下町恋情怨舞
葛飾区白鳥。妻子ある中小企業社長と結婚したかった女は、社長がよりをもどす、「おまえも良い相手を探せ。」と言われて怒った。妻に切り付けた上、八歳の子供を絞め殺してしまった。以後、社長の指示で、死体を大宮市の雑木林に捨て、社長は女に疑惑が集中せぬよう、嘘の証言を繰り返した。
みゆき荘十号室
池袋のアパート。健康診断に来る予定だった二歳の幼女が来ないと保母が訪ねると、アパートはガスの臭い。夫が服役中で、将来を絶望した母が幼女の首を絞め、自殺を図ったが失敗したものだった。
褐色の銃弾
沖縄のやくざ抗争。上原勇吉一家の殲滅を謀ろうとした新城喜文理事長を、一家の日島稔等が、キャバレーで襲い、銃殺した。その報復で上原一家の三人がリンチの上、土にうめられる。空白をねらって勢力を伸ばした又吉世喜が、護衛付きで犬の散歩をさせているところを、車で追いついた何者かに狙撃され死亡。
何処へ行ったの?
大阪府和泉市。宮崎県から中卒で就職した繊維会社女工二人が、六年おいて次々に失踪。つき合っていた男は繊維会社のぼんぼん。新妻と共に知らぬ、存ぜぬを通したが、ついに落城。二人は当然の事ながら、殺されて泉佐野市の山奥にうめられていた。
(参考)保険金殺人例(186p)
@名古屋市の会社員殺し=三十八歳の会社員が知合いの保険外交員(三七)から呼び出され、車庫の中でバヅトによってなぐり殺された。三人がかりの犯行で、被害者には五千七百万円の保険がかけてあった(一九七一年六月四日発生、六月十日検挙)。
A北海道千歳市の妻殺し=四十歳の主婦が絞殺され、二人の暴力固員の犯行であることが分ったが、やがて夫(二九)が千二百万円の保険金ほしさに、自分のアリバィを作ったうえでの委託殺人であったと判明した(一九七一年八月一日発生、翌七二年七月二十六日検挙)。
B静岡市の養母殺し=五十二歳の飲食店経営者が、自宅近くの路上で死亡した。これは養子(三○)が、母親を誘い出して自動車で轢殺し、交通事故を偽装して保険金千二百万円を受取ったものだった(一九七一年九月二十五日発生、翌七二年五月一日検挙)。
C秋日市の妻殺し=ホテル従業員の五十三歳の女性が路上で死亡したが、内縁の夫(四一)が二千万円の保険金をねらい、友人二人と共謀して絞殺し、交通事故に見せがけたものだった(一九七一年十一月十九日発生、同日検挙)。
D北海道空知郡の妻殺し=四十五歳の主婦が自宅で絞殺されていたが、ムコ養子である夫(四七)が実権をにぎる妻を憎み、二千万円の保険をかけて強盗殺人を偽装したものだった(一九七二年一月二十三日発生、三十日検挙)。
E静岡県榛原郡の社長殺し=三十八歳の木材センター社長がなぐり殺されたが、知合いの不動産業者(三七)ら三人の犯行で、社長にかけた保険金一億八千五百五十万円の詐取が目的だった(一九七二年二月二十日発生、三月十五日検挙)。
F青森市の娘殺し=小学校四年生(九)が車にはねられ死亡、これは父親(三八)が娘にかけた二千六百二十二万円の保険金ほしさに、暴力団員二人を三百万円でやとって殺させたものだった(一九七二年八月二十八日発生。九月三日検挙)。
G横浜市の夫殺し=三十九歳のグラブ経営者が、ビストルで射たれて死亡した。これは七千五百万円の保険をかけた妻(三七)の事業資金ほしさの犯行だった(一九七二年八月三十日発生、十月十一日検挙)。
9函館市の息子殺し=中学一年生(一三)の少年が、自宅前の車庫でハンマーでなぐり殺された。借金の返済に困った父親が、自賠責保険を目当てに交通事故を偽装したものだった(一九七三年一月四日発生、十二月三日検挙)。
10兵庫県印南郡の会社員殺し=三十歳の会社員が後がらきた自動車にはねられて死亡した。知人のメッキ業者(二八)が仲間と共謀し、一千万円の保険をかけて、盗んだ車をぷつけたもの(一九七三年四月十日発生、六月十七日検挙)。
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