弥生書房 ENCYCLOPEDIA OF MURDER 大庭 忠男訳
著者は過去の殺人事件のうち、犯人の心理につい多少の洞察を得ることができるような事件をから何かを学ぼうと、考えた。この書は著者の実存主義の立場からあらわした「殺人の研究」なる論文と分析した事件よりなる。実は三百件以上収録されているのだが、訳者が日本の読者に興味の有りそうなものを選んで編纂してある。
殺人の研究
殺人の研究から、何かを学ぶことが出来るであろうか。科学的な意味では私はこれを疑う。しかし人が究極の問題について、宗教のレデイ・メイドの答えで満足する時代は終わった。一方でそれを問いを発することが無益になったことを意味するものではない。私は実存主義の立場から人間とは何か、我々はなぜいきるのか、人間の生存の目的は何か、それらの答えを求めたいと考えた。そこで、未知の粉末を分析する化学者のような態度で個々の事件の分析を試みた。
一年間をついやしてこの本を編集し終わったとき、私の心をとらえたのは、悲惨な感じとあわれみであった。これは人間のごみ捨て場である。人間が神になることがあるにしても、まず、これを乗り越えなければならない。
* 殺人者がかけているのは、まさにこの生命の価値の認識である。(21p)
* 実存主義は、人間の存在をプラグマテイックに評価し、宗教にも、聖書にも、超自然の権威にも頼らないで価値体系を創造しようとするこころみである(22P)
* 「動機のない犯罪はそんざいするだろうか。」「豊かな社会」との関係(26p)
* 暴力犯罪と性犯罪は、われわれの高い文明の水準の一つの代償であると見ることが可能であるように見える(30p)
* もっとも正直な人はもっとも反社会的であることが多い。(34p)
* 犯罪はそれと戦う人々の間にさえ犯罪をうむ(34p)
* もし人間の進化が何らかの意味を持つとすれば、それは、生命を、すべての生命を、より強く愛することである(35p)
* 文明に対する最後の答えは無政府主義である(36p)
* 殺人者の大部分は退屈な人間であり、ほとんどすべてが愚者であると私は感じる(37p)
* 人生は、ばかげているかも知れないが、死はもっとばかげている。(45p)
以下、取り上げられている事件とその一行コメント。年代は最後の事件が起こった年、場所あるいは國は事件発生場所である。
セックス殺人
霧の夜の戦燥
1888年、ロンドンで起った切り裂きジャック事件。犯人は捕まっていない。島田荘司「切り裂きジャック百年の孤独」
少女を煮て食う変態男
1928年、米国。変態心理の記録の中でも異常な例であると言われている。
「十戒」が殺人のすすめ
1960年、ドイツ。ワイセツな映画をみると我慢できず「女に何かせずにはいられなくなった。」「十戒」を見て女を暴行しようとしたが反抗されたため殺した。
不能男の連続殺人
1953年、ロンドン。酒を飲ませて眠らせた後、ガス・パイプの栓を開け、中毒死させる手口が面白い。
十代の「セックス・クラブ」
1959年、アメリカ。十代の子供たちの秘密の隠れ家は一種のセックスクラブだった。
満月の夜はアベツクを殺ぜ
1946年、アメリカ。アベックを専門に狙った銃による殺人。犯人は捕まっていない。
デュツセルドルフの「怪物」
1929年、ドイツ。犯人キュルテンは十代初めに家をでて、浮浪生活を始めた。獣姦を行うなど、性的に異常。女性ばかりを狙って暴行と殺人を繰り返した。
毒殺
棺のコレクションを楽しむ女
ルーマニア。あの人たちが私を抱擁した後、他の女を抱くかも知れない、と考え夫二人、愛人三十四人を砒素で毒殺、死体を金属製の寝棺に保存して楽しんだ。
夫を毒殺した「ボバリー夫人」
1839年、フランス。浮気な夫に毒入りケーキを贈って殺したらしいのだが、詳細不明。終身刑になったが刑務所では女中に従姉妹つきだった。
ロンドン塔の悲劇
1613年、イギリス。同性愛常習者ジェームズ一世に一時は愛されたトマス・オアーバー・ベリー卿は不興をこうむりロンドン塔に幽閉された後、時間をかけて毒殺されたらしい。
不手ぎわな毒殺者
1751年、イギリス。結婚に反対する父を砒素で毒殺しようとしたが、一緒にいた他人が飲み、毒を捨てなかったから召し使いが飲むなど目茶苦茶になってしまった。
美しき毒殺魔
1932年、オーストリア。関係した人々を次々に毒殺した保険金殺人のはしり。
老人ホームの危険な看護婦
1914年、アメリカ。老人ホームの看護婦が次々と砒素で老人を毒殺。外には「まもなく、欠員が出来る予定です。」
二十世紀の吸血鬼
1949年、イギリス。犯人は偏執狂。金品目的で人を殺し、硫酸漕に投げ込み溶かしてしまった。
射殺
夫と共謀で愛人を惨殺
1849年、イギリス。夫は愛人に走ったが、連れ戻し、二人で愛人を殺し保険金を奪った。
夫交換ゲームの当然な結末
1954年、アメリカ。ロレーンは近所の無軌道な男女に仲間入りしてカギ遊びに夢中になった。浮気現場に夫に踏み込まれ殺すことになった。
老将軍は妻を殺したか?
1908年、イギリス。老将軍の妻が自宅で銃で撃たれていた。てがかりはまったくなかったがふとした事で将軍に嫌疑がかかった。裁判途中将軍は鉄道自殺した。
おしどり夫婦の「商売」
1949年、アメリカ。女性専門の詐欺師と結婚した看護婦。二人は共同して女から金を巻き上げ始めた。三年間で二十人殺した。
のぞき男が一家皆殺し
1952年、フランス。河原のテントのなかで寝間着に着替えるところをのぞいた男は、怒ってでてきた夫を射殺した。息子に犯人と名指され、親父が逮捕された。
男性遍歴の果てに恋人を射殺
1951年、フランス。男遍歴のすえ、昔の恋人にあい、復縁を迫ったが失敗、無理心中をはかったもの。
消された殺し星
1806年、イギリス。いばりちらし、弱い者いじめをする牧師を住民は大工を殺しやとして雇い、殺させた。しかし警察の手が大工に及ぶと大工を殺した。
アベックをねらう二人組
1956年、ドイツ。射殺、睡眠薬、青酸塩等を使ってアベックを襲い、殺したり金品を奪ったりした。
アナーキストを片づけろ
1920年、アメリカ。強盗容疑で二人のイタリア人が逮捕された。彼らはシロだ、とする証人もいた。しかし判事は極端な人種差別主義者、彼らにアナーキストのレッテルをはり無理矢理死刑にしてしまった。
爆薬による殺人
若妻の乗った飛行機を爆破
1949年、カナダ。妻の乗る飛行機に時限装置つきダイナマイトを手荷物として届けさせた。目的は保険金目当てか、浮気が発覚して警察に届けられそうになったからか。爆破された後で犯人は「せいせいした。」と語ったそうだ。
誘拐殺人
リンドバーグ愛児誘拐事件
1932年、アメリカ。愛児を誘拐されたリンドバーグは五万ドルを用意すると番号を控えた。身代金は渡されたが愛児は死体となって帰った。しかしリンドバーク紙幣から足がついた。
十二才の少女を誘拐惨殺
1928年、アメリカ。リンドバーグ事件と同じく身代金を払ったが愛児を殺され、その上バラバラにされた事件。胴を包んであった布に残ったイニシアルから足がついた。
秀才青年の「完全犯罪」実験
1924年、アメリカ。裕福な家庭出身の大学生二人が、スリルのある「完全犯罪」を求めて、少年を誘拐して殺してしまった。現場に落ちていた眼鏡から足がつき、脅迫状の筆跡鑑定が決めてとなった。
斧による殺人
ニューオリーンズの斧男
1918年、アメリカ。斧による殺人。容疑者としてイタリア人親子が浮かび、死刑と終身刑の判決を受けたが、犯行が再び行われた。
夫を募集して斧でバッサリ
1908年、アメリカ。「大農場を所有する若い美貌の未亡人」なるふれこみで、結婚相手を募集。斧でばっさりやって金品を奪い続けた。犯人は不思議にうばった金を孤児院に寄付していた。
溺死させたもの
浴槽の花嫁
1914年、イギリス。感化院出身の結婚詐欺師スミスと結婚した女性はいつも風呂場で水死体で見つかった。
愛児を殺して愛のあかし
1954年、フランス。男に愛のあかしに子どもを殺せ、と命じられ、殺した女の話。
「陽のあたる場所」
1906年、アメリカ。妊娠した交際相手を、出世の妨げになるとボートを転覆させて殺害。これをもとにシオドア・ドライザーは「アメリカの悲劇」を書き、エリザベス・テーラー、モンゴメリー・クリフトの映画「陽のあたる場所」が生まれた。
大量殺人
魅カある大量殺人者
1921年、フランス。第一次大戦の影響か、男は殺人狂に変身。花嫁を募集し、次々と殺害、遺体を暖炉で焼いた。映画「ランドリュー」「殺人狂時代」で知られる。
旅人を常食とする山賊一家
1400年頃、イギリス。旅人がしばしば行方不明になったので発覚。
アナスターシァを殺した男
1920年、ドイツ。アナスターシアらしい女性を惨殺し、ばらばらにした事件。
偽われるレジスタンスの闘士
1944年、フランス。ナチスの手を逃れ外国に脱出させてやると誘い、次々に殺害、金品を奪った。二十七体の死体は暖炉で焼却。
恐怖の人間ゴリラ
1920年代のアメリカを震え上がらせたセックス殺人犯。精神薄弱者に近い。
死体を売る夫婦づれ
1828年、イギリス。医師が実験用の死体を欲しがっていることに目をつけ、夫婦は次々に目をつけた人たちを殺害。
ナチも手を焼いた大量殺人者
1928年以来噂では85人もの女性を殺した殺人狂。最後はウイーンの病院でモルモット代わりにされた。
美男子の肉売ります
1919年、ドイツ。飢えた男は性的倒錯者などの集まるカフェで獲物を物色。殺害後解体して食ったり肉を販売したりした。
小児をねらう女殺人狂
1907年、フランス。犯罪史上に類例の少ないサデイステイックな女性の小児殺人者の話。精神病院に収容され最後は自分の首を絞めた。
勅殺
詩人の犯罪
1834年、フランス。ルソーに感化された詩人は、社会を憎悪し殺人を繰り返した。
バイロン卿の殺人
1765年、イギリス。詩人バイロンの大叔父バイロン卿は、殺人で裁判に掛けられたが、僧侶や知識階級に与えられる「聖職裁判権」を振りかざして無罪になった。
異母弟を切り殺した少女
1860年、イギリス。異母弟を惨殺したが、裁判では証拠不十分で帰された。修道院に入ったが、5年後に警察に自首して出た。
殴殺
老いた夫と若いツバメの間で
1935年、イギリス。下男と懇ろになった夫人は夫を殺害。裁判では無罪になったが自殺。
ママを殺してなぜ悪い?
1954年、ニュージランド。女の子は「ママが死んだっておかしくはないわ。毎日何千人もの人がしんでいるんですもの。」と日記に書き、お友達と一緒にママを殺した
女にもてる死刑囚
1933年、アメリカ。女と遊ぶ金が欲しくて殺人を犯すなどした男。刑務所で「私は元気、首吊りも平気」などという歌を作りタップダンス。若い女の訪問を何度も受けた。
妻殺しの老学者へ検事の同情
1871年、イギリス。六十四歳になった評判の良い教師を学校は首にした。生活は極度に苦しかった。ふさぎ込んでいる夫に妻は食ってかかり、インポテンツとののしった。そして殺人。彼の死は死亡記事がタイム誌に載った。
娘に嫉妬した父親の兇行
1953年、アメリカ。ボーイフレンドが出来、手放すくらいならと娘を殺してしまった。
娘の恋人に罪をかぶせた警官
医師夫妻が殺され、若い男が逮捕された。終身刑を言い渡されたが、若い男は小さい、1937年、アメリカ。医師は大男、どうして死体を発見場所の車の中に運ぶことができたのか。犯人は娘を孕ませられた警官だった!
破戒僧か聖者か?
1894年、フランス。殺人、放火、保険金詐欺などなんでもやった聖職者の話。最後は僧院長を殺している。
絞殺
工科学生の女子学生殺し
1938年、アメリカ。女子学生が下宿先で強姦、絞殺された。前夜婚約者が訪れている。女子学生と同じ下宿に住む学生が、心理的側面などを分析し、婚約者が犯人と垂れ込んだ。しかし警察は学生の垂れ込みをそのまま信じるほど馬鹿ではない。
ギャング
聖バレンタイン・デーの虐殺
1929年、アメリカ。アル・カポネが対抗勢力を消すために行った大虐殺劇。
西部を荒らす強盗団の女首領
1883年、アメリカ。テキサスの女首領ベル・スターの話。
暗殺
トロツキーの暗殺者
1940年、メキシコ。トロッキー暗殺者の話。ロミー・シュナイダー主演で「暗殺者」という映画にもなった。
浴槽を血に染めた女刺客
1793年、フランス。フランス革命の先鋭的指導者ジャン・ポール・マラーが風呂場でシャルロット・コルデーによって暗殺された話。
国家の元首を暗殺した男たち
ジャクソン大統領、リンカーン大統領、ガーフィールド大統領などの暗殺の話。ケネデイについての記述はない。
戦争犯罪
日本憲兵の残虐行為
この項目だけは作者が違う。憲兵隊スミダ中佐の話であるが、白人の一方的な裁判にも見え、納得できるものではない。
六百万人を虐殺した男
作者は日本憲兵の残虐行為と同様。これはスミダ中佐の場合とは違う。戦争に関係ない民を無数に殺している。ただイスラエル政府の民族と民族の対立で捕らえるやり方が首肯できるかどうかは疑問と思う。
「殺人工場」の忠実な支配人
作者は日本憲兵の残虐行為と同様。ヘスの行為について述べている。
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