講談社文庫
織田信長が探偵役、その活躍ぶりを修道士が書き記したという形を取っている。短編集だが時代の特色がよく記述され雰囲気が出ている。
修道士の首
行方不明になったヘルナンド修道士が闇夜に現れ、おいかけると朝山邸の前で空中に飛び上がり消えてしまった。信長が闇夜を作ると、空中にヘルナンドが現れる。鉄砲で撃つと忽然と消え、朝山が討ち取ったとの報。しかし信長は、朝山がキリシタンの評判を失墜するためにヘルナンドを誘拐して首を切り、張り子の胴体を作り、クラヴサンの弦を使って空中に修道士像をとばせたトリックを見破った。
二つ玉の男
京都から尾張に戻る途中、三百間先から撃てるという鉄砲名人・善住坊が信長の命をねらっているという。そこで近くに山のない間道を取る事にするが、信長は山道に入るときに気がつき、おとりをたてて難を逃れる。三百間先から鉄砲を当てるのは無理だ。ならばそこで鉄砲の音をさせ、至近距離にいる者が同時に狙撃する。
六点鐘は二度鳴る
本願寺の織田との和解派、下間治重が竹に雀のダイイング・メッセージを残し、殺された。そして家紋から織田臣下の池尻隼人に疑いの目が向けられたが、証拠がない。しかし信長は教会の六点鐘と、寺でならす暮れ六の間に差があることを知り、池尻が暮れ六の鐘を鳴らす時刻を変えてアリバイを作ったことを見破る。
王者の罪業
長倉殿の屋敷から出火、焼け跡から主人甚左衛門の腹をかききった死体と、ミゲルの死体が見つかった。家老長倉頼母によれば、前夜二人は密かに話し合っていたという。息子の新八郎が逐電する。その新八郎が信長を狙撃し、捕らえられ、懐から「悪王、家臣の妻に邪心を抱き・・・。」と信長を非難するらしい文書が出てきた。しかし信長は、新八郎死亡のデマ情報を流し、関係者を吟味。毛利に内通していた頼母が、二人を殺害、聖書の翻訳文の一部を切り取って新八郎に見せ、たぶらかしたと断定する。
身中の虫
茶の湯を催している最中に客がばったり倒れて死ぬ。もう一度実験をしてみるとある男が登城途中、行者に「死相が現れている。」と護符を与えられ、飲んだという。信長は護符のなかに班猫という中国古来の毒が忍ばせてあり、それが胃の中で茶会の時に漏れ出て死んだと見破る。
不道明王の剣
京都で下山三右衛門が不道明王の持つ倶利伽藍剣で刺し殺された。金剛坊の守る不道明王に魔力があるか否か試すことになり、ジョアン殿が志願して不動堂にこもるが夜中におそわれる。傷は浅かったが剣にトリカブトが塗ってあり、裏切ったなの声と共に絶命。しかし族はどこから入り、どこに逃げたか。信長は剣を床に刺し、床下の金剛坊を刺す。ジョアンと金剛坊共犯でキリスト教の信頼を失墜させようとしたが、あくまで信長の命をねらう金剛坊主が裏切ったのだった。
裁かれたアドニス
カピタンから贈られたアドニス像の前で楓が「バチオ」の言葉を残し死んでいた。楓はカピタンの恋人であったため、カピタンは鉄砲を売らぬ、とごね出す。しかし信長は犯人はアドニスとして首を切り、夜陰にその首に近づこうとした女を捕らえて事件の核心にせまる。バチオは接吻の意で、毒はアドニス像の唇に武田の間者によって塗られていた。
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