春琴抄    谷崎 潤一郎


新潮文庫

「鵙屋春琴傳」なる小冊子を元にして、幕末から明治にかけて、主従であり、師弟であり、実際上の夫婦でもあった男女の間を語った中編小説である。
薬種商鵙屋の娘春琴は、9歳の時に失明して以来、琴三弦の稽古にはげんだ。家では奉公人の佐助に、春琴の手をひかせ師匠のもとに通わせたが、佐助は、そのうちに自身も琴三弦を習うばかりか、四つ年下の春琴のから教わるようになってしまった。
春琴を佐助は慕っているらしいのだが、大阪という特定の土地の薬屋できびしい封建制の元、春琴が受け入れる訳もない。それでも佐助は、文字通り献身的な愛と思慕と畏敬を捧げる。
しかし春琴はその高慢さの故に、何者かによって熱湯を顔にかけられ、高雅な美貌を傷つけられてしまう。ここから物語は後半に入る。
佐助は彼にとって「永遠の女性」であった春琴の無惨な姿を見るに忍びず、我が両眼を針でつき、自分もまた師匠と同じ暗黒の世界に入って行く。それでも佐助は外界の目を失った変わりに、内界の目が開けたことを知り、ようやく春琴と同じ世界に生きることが出来るようになった、と喜ぶ。

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