潮騒      三島 由紀夫


新潮文庫

歌島は人口1400,周囲一里に充たない伊勢湾口にある小島でる。
久保新治は、新制中学をでたばかりの漁師で、恩義を感じている燈台長にいつも採れた魚を届ける、素朴な男である。家庭は母と弟の三人暮らし。
資産家の宮田照吉のところに、美貌の娘、初江が帰ってきた。一目会ったときから、彼らは引かれあった。しかし島では支部長の息子川本安夫が入り婿するという噂がたった。安夫はプレイボーイだったが、密かに新治に思いを寄せていた燈台長の娘千代子の告げ口で、新治と初江が怪しい仲と知り、初江を襲うが失敗する。
しかしこれで二人の仲が知れ渡り、怒った宮田は娘を家に閉じこめてしまう。それでも密かに続く手紙のやりとり。やがて新治と安夫が同じ外用船に乗ることになった。漁労長の十吉の監督する船だが、実は宮田が十吉に二人の比較を依頼していたのだ。
小説と言うより、物語あるいは童話的だが、実に良く書けている。善玉と悪玉がはっきり区別され、しかも偶然によって物事が次々に良い方に転がって行く…・読者は予想できるのだけれども、それでいてうれしくなってしまう、そんな書き方である。もちろん話はハッピーエンドに終わる。海女たちの乳房比べの話、物売りの男の話など素朴な村のエピソードがふんだんにちりばめられ、的確な場景描写と相まって作品の効果を盛り上げている。

・ <的確な風景描写>
ここからは(八代神社)、島がその湾口に位している伊勢海の周辺が隈無く見える。北には知多半島がせまり、東から北へ渥美半島が延びている。西には宇治山田から津の四日市にいたる海岸線が隠見している。200段の石段を昇って、一双の石の唐獅子に戊られた鳥居のところで見返ると、こういう遠景に囲まれた古代さながらの伊勢の海が眺められた。もとはここに、枝が交錯して、鳥居の形をなした「鳥居の松」があって、それが眺望に面白い額縁を与えていたが、数年前、枯死してしまった。

011205