白い人・黄色い人    遠藤 周作


新潮文庫

白い人
うまれつき斜視に生れた私は、両親に愛されず、母親の純潔主義、獣姦にふける女中、アデンで知った加虐の悦び、下着へのあこがれなどの経験を経る。戦争が始まり、ドイツ軍によって私の住むリヨンが占領された。私は占領軍に協力しスパイ拷問時における通訳をやった。(私の悪への陶酔と良心の麻痺はどこから来たのか。)私の親友で私同様醜い顔を持ち、マリア・テレーズに恋心をいだく抗独運動家ジャックが、連れてこられた。マリアを責めるとジャックは自殺してしまった。(なぜ自殺したんだ、無駄死にだよ。悪は滅びやしない。君がしなければいけなかったことは僕を倒すことさ。)
連合軍が精力を盛り返し、リヨンに迫っている。私は目をつむってあの老犬を組み敷いた女中のイボンヌの白い足を思い出す。
良心の麻痺した主人公の独白という形でたんたんと語られ、その原因がどこから生れたかがまたたんたんと語られる。。肉体と精神の疲れだけが残り、そこには救いも無く、方向性の暗示もない。作者は人間の奥底に潜む悪の本質を、キリスト教的観点で捉え、それをとりあえず洗い出してみよう、という考えでこの物語を書いたのだろうか。その意図が私には今一歩理解しがたかった。

・ 人間は自己の肉体の苦痛の前には、すべての人類への友情、信義をも裏切る弱い、もろい存在である。(69p)
(1955 32歳)


黄色い人
B29の攻撃にさらされる大坂仁川。千葉は、従妹の糸子を、特攻隊員の佐伯という婚約者がいるにもかかわらず、抱いてしまった。デユラン神父は、嵐で落ち着く先も食べるものもなかったキミコをかくまったが、そのまま関係してしまった。
弱い二人、千葉がブロウ神父に当てた手紙とデユランの日記を中心にして話は進んで行く。キミコとの関係が発覚し教会を追放されたデユランは、千葉がフランス語を習うブロウ神父に生活費の援助を受けてかろうじて生活していた。しかしデユランは卑屈で自己防衛的、ブロウ神父から預かった拳銃をそっと返してくる。そして警察に密告。ブロウ神父は捕らえられていった。そんな中千葉はデユランの死、糸子の死に何も為し得ない。
絶望的な状況で、人間が如何に弱いものであるかを描いた点で「白い人」と本質的に変わりはない。意図が一歩理解しがたく、暗い気持ちにさせることも。

・黄色人のぼくには、あなたたちのような罪の意識や虚無などのような深刻なもの、大袈裟なものはまったくないのです。(91p)
・ なぜ、神様の事や教会の事が忘れられへんの。忘れればええやないの。あんたは教会を捨てはったんでしょう。ならどうしていつまでもその事ばかり気にかかりますの。なんまいだといえばそれでゆるしてくれる仏さまのほうがどれだけいいか、分からへん。(136p)
(1955 32歳)
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