スプートニクの恋人   村上春樹

講談社文庫

22歳の春にすみれは生まれて初めて恋におちた。広大な平原をまっすぐ突き進む竜巻のような激しい恋だった。ひとことで言えば彼女は救いがたいロマンチストである。彼女が恋におちた相手は同性の「ミュウ」で、年上である。

すみれは小説家志望で、大学も小説家になるためにやめた。彼女の文章を見ることで僕と彼女は知り合った。僕は彼女に恋をしていた。最初に言葉を交わしたときからひかれ、長い間すみれしかいないのと同じだった。

ミューとすみれは結婚式の披露宴で知り合い、やがて彼女の元で働くようになった。ミュウの仕事はワインの買い付けなどであった。

あるときすみれとミュウはギリシャにし出張した。仕事が終った後、二人はエーゲ海の孤島でリラックスした一時を過ごした。そんな時、ミューから僕に電話がかかった。とにかくこちらに来てくれ。ミューの話では「すみれが突然煙のように消えてなくなった。」というのである。

・ たとえば君が五月の海辺を描写すると、耳元で風の音が聞こえて、そこに潮のにおいがする。太陽のかすかな暖かさを両腕に感じる事ができる。(79p)

・ 自分について語ろうとするとき、ぼくは常に軽い混乱に巻き込まれる。・・・ぼく以上にぼくについて多くを語ることの出来る人間は、この世のどこにもいない。しかしぼくが自分自身について語るとき、そこで語られる僕は必然的に・・・その価値観や感覚の尺度や、観察者としての能力や、様々な現実的利害によって・・・・取捨選択され、規定され、切り取られていることになる。(82p)

・ 文章が「うまく書きとおせる」自信があったことなんて、生まれてこの方一度もなかったのではないか。私はただ書かずにはいられないから書いていただけだ。どうして書かずにはいられないのか?その理由ははっきりしている。何かについて考えるためには、ひとまずその何かを文章にしてみる必要があるからだ。(198p)

・ 大事なのは、他人の頭で考えられた大きなことより、自分の頭で考えた小さなことだ。(247p)