幻冬社ハードカバー
「不良中年」は楽しいに続いてこの本を読んだ。読み終えた日に奥さんに癌で先立たれた夏目漱石研究で有名な評論家江藤淳の自殺が伝えられた。歎異抄の影響を受けた作者が、「プレジデント」「家の光」、「別冊サライ」そしてNHKラジオで発表したものをまとめたもの。
経済大国として世界をリードしている日本で、年間二万三千人以上の自殺者が出ている。十万人もの人が自殺を試みている。まさに現代は「心の内戦」が激烈に展開されている時代である。もう覚悟を決めるしかない。楽天的なプラス思考だけではやって行けない。人生は苦しみと絶望の連続、地獄は今ここにあると認識することから始めなければいけない。そう覚悟することによって真の希望と生きる勇気が湧いてくる。ブッダも親鸞も究極のマイナス思考から出発した。地獄の中にこそ極楽を見つける機会がある。
この書の魅力は、作者がいろいろ考え、経験した末到達した、深い愛と真実の本音が語られているところにあるように思う。あるがままにあることを、肯定もせず、否定もせず、受け入れてみせることが如何に大切かを訴えている。昭和9年生まれ、歳を経て経験したものが凝縮され、読むものに生きる勇気を与えている。
・「人は大河の一滴」それは小さな一滴の水の粒に過ぎないが、大きな水のの流れを形作る一滴であり、永遠の時間に向かって動いて行くリズムの一部なのだと・・・・。人の死は「海への帰還」「空への帰還」「地上への帰還」(25p)
・極楽は地獄の中にあり。(36p)
・聖徳太子の最後の言葉=世間虚仮唯物是心「なんとでたらめな世の中であることよ」(49p)
・世の中に完全に健康な人間などと言うものはいるわけがない。死は万人にセットされている。(59p)
・インドでの死の発見・・・・今の私たちの社会が、いかに死というものを目隠しして、抽象的な死というものだけが一人歩きしているか、と言うことを、改めて考えさせます。(81P)
・戦争の時代を通過してきた人たちとか戦後の時期を生き抜いた人たちがその時代のことを語るとき共通して言えることは、それがどれほどつらい時代であったか、どれほど悲惨な時代であったかという事を語りながらも、語っている人の声に力があり、かつ語っている人の目がきらきらと輝いている。・・・・確かに自分は生きていたという、そう言う実感があるのだろうと思います。(109p)
・お互いの違いを見いだして、目くじらをたてて対立するよりは、お互いの共通点を並べながら共存を模索する方が、お互いの利益になる・・・。(135p)
・アウシュビッツ生き残りの術・・・笑い(141p)
・医者のペシミズム・・・・ブードウー死(180p)
・空海と面授の大切さ(210p)
・障害のある人や老人を隔離しようとする傾向がありますが、あれは、ある意味でアパルトヘイトの思想です。(238p)
・現実にはプラス思考だけでは救われない世界があります。そして、実はプラス思考と対をなして、大きなマイナス思考という重要な世界がある。そのマイナス思考のどん底の中からしか本当のプラス思考はつかめないと言うのが、私の考え方なのです。(246p)
・酒鬼薔薇事件・・・自己の生命の重さが感じられない。それが時代の実感なのです。そして、自分の命の尊さに実感がないと言うことは、イコール他者のものの命も同じ様な重さでしか無いという事になります。(251p)
・合理的な乾いた社会と人情や日本的情緒のウエットな社会(261p)
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