探偵の秋あるいは猥の悲劇    岩崎 正吾


創元推理文庫

県内有数の名士である八田家の当主八田欲右衛門が、癌の宣告を受けて自殺してからもうすぐ1年が経とうとしている。一族のうち欲右衛門系列は三番目の妻えみ緒、長女薔薇子、次女小百合、三女は盲目のすみれ、そして小百合の娘でいつもどこにいるのか分からない高一、娘のリカである。このほかに欲右衛門の次弟平馬、その息子連太郎、末弟左平次、亡くなった妹の夫で県会議員の吉田三郎、八田交通社員の石森優一郎、使用人故栗林完七の妻たけ、息子の昌平などがいる。
遺書の内容は(1)当主の地位は、薔薇子、小百合が1年以内に伴侶ができた場合はそのものに与える(2)伴侶が得られない場合えみ緒を暫定当主として、以後一族の合議できめる。ここまでは平馬や左平次とは生前に話がついている事を考えれば妥当だったがもう一つあった。(3)ただしすみれが栗林昌平と結婚する意志があるなら(1)、(2)に最優先して当主と決定する。
遺族は一周忌の法要のために昔なじみの旅役者市川乱菊を呼び寄せた。「旦那、この乱菊が帰ってめえりやしたぜ…。」二十数年ぶりに甲府に降り立った老優は感激し、昔の弟子白菊を呼び寄せる。一方薔薇子に連太郎が近づき、結婚し当主となろうと持ちかける。平馬のさしがねである。小百合は石森優一郎を結婚相手に選ぼうとする。吉田三郎が石森をたきつけている。
悲劇はこんな状況の中で始まった。まず栗林たけが塩素系の洗剤と酸性の洗剤を混合して使い、発生した塩素ガスによって死亡した。すみれが飲んだコーヒーの中にニコチンが入っていたが、量が少なかった為に幸い命をとりとめた。ここまで進んだとき、どうやら殺人方法が欲右衛門の残した殺人ノートによっているらしいと判明した。そのノートはえみ子が欲右衛門の書斎に保管していたが、薔薇子は書斎の秘密の通路を使って、高一は天井を使って忍び込みそれぞれ見ていた。石森が農薬入りビールを飲んで死んだ。薔薇子が空中をとんで死んだ。これは後に分かるが白菊が木から飛び降りるときに滑車を使うがそ重石代わりに薔薇子を用いて引っ張り上げ、縊死させた物である。
こんな難事件に山梨県警捜査一課長の正木修と娘のゆうがいどむ。すみれ、昌平の出生の秘密が事件の解決の鍵を握っている。一歩一歩彼らは真相に近づき最後に犯人を追いつめる。しかし犯人はその辺に自生しているトリカブトを食べた…。

この作品はエラリー・クイーン「Yの悲劇」の本歌取りである。名前もヨーク・ハッターが八田欲右衛門、エミリー・ハッターが八田えみ緒、バーバラが薔薇子等となっている。「Yの悲劇」の小説の梗概にあたるものが殺人ノートである。「Yの悲劇」と同様盲目のすみれが「硬くてすべすべしたもの」に触るがそれが犯人の禿頭だった、というのも面白い。
田舎風の味があり、なかなか良く書けていると思うが、動機のところがすこし不自然でごたごたしている気がした。また推理プロセスに一工夫欲しいように思う。
010827