集英社
心温まる大人の童話集と言った趣。それぞれに話のテーマ、進め方、語り口に工夫が凝らされており、読むものを感動させる。
鉄道員
幌舞線は一両だけの列車が走る単線だったが、いよいよ廃線になることになった。同時に幌舞駅の駅長乙松も、定年を迎えることになった。彼は17年前、43歳の時、うまれたばかりの一人娘を亡くした。午前零時、雪の中を見たことのない女の子が、忘れたセルロイドの人形を取りにやってきた。札幌の本社から電話があった。明け方、今度はさっきの女の子の姉だという女学生がやってきた。ラッセルを動かして戻ると、その子が朝御飯を作って待っていてくれた。翌朝、始発のラッセルがホームの先端に倒れている乙松をみつけた。
ラブ・レター
留置場帰りの吾郎が、佐竹のもとに行くと「お前が渡航のために偽装結婚してやった中国女白蘭が死んだ、死体を取りに行ってくれ。」と言われ、一通の手紙を渡される。それは白蘭からのラブレターに近い礼状だった。病院で死体と対面、白蘭はここでも最後のラブレターを吾郎あてに書いていた。骨壺を抱いて帰路に就きながら、白蘭とオホーツクの浜で漁師になって暮らす事を考え、涙が出た。一緒に行ったサトシが不思議そうに吾郎を眺める。
悪魔
僕の生家は山の手の屋敷だったが、家庭教師としてやってきた蔭山は悪魔だった。やがて母と関係し、父はそのため死期をはやめ、僕は叔父に引き取られることになった。しばらくして訪れた生家は鼠が群をなしてすみつき、それこそ、幽霊屋敷になっていた。
角筈にて
貫井恭一は、プロジェクトの失敗の責任を負い、リオデジャネイロ支店に飛ばされることになった。自分の葬式にも見えた壮行会のあと、彼は角筈で幼いときに自分を捨てて去っていた白いパナマ帽の死んだ筈の父を見かけた。翌日妻と空港に向かうが、自分を捨てざるをえなかった父を思い、同時に何年か前におろさせてしまった我が子のことを思い、彼は妻の苦笑するのも構わず、花園神社にお参りをする。もはやふるさとにはなんの未練もなかった。
伽羅
ファッション・メーカー営業部員の私は、競争相手メーカーの小谷に紹介されて立花静の経営するブテイック「伽羅」に納品し始める。私は、営業部員が個人商店に商品を押し込み、金詰まりに追い込み、手形を切らせ、つぶして行く過程を良く知っていた。静に恋心を抱く私はやめたが、小谷はどんどん押し込んだ。「小谷に気をつけなさい。」という私に彼女は「女の恨みって恐ろしいのよ。」と言った。やがて小谷が交通事故で死んだ。
うらぼんえ
亡くなった祖父に育てられた私は、薬剤師だが優柔不断の夫との間に子がない。その夫は看護婦と浮気し、子を作ってしまった。半年前に夫の祖父が亡くなり、そのうらぼんに浜松にゆく。義兄や舅から「子のない嫁は去れ!」との仕打ち。困っているとおじいちゃんが現れ、脅しを利かせてくれたが、結局分かれる事になる。翌日、精霊ながし、沖に消えて行くおじいちゃんの姿を見て私は子を産みたいと思った。
ろくでなしのサンタ
刑務所をでた柏木三太は、要領が悪く、仲間の罪まで背負って服役せざるをえなくなるだろう、ムショ仲間の北川のことを思う。ちょうどクリスマス、大きな人形などを買って留守家族を訪問するが・・・・。
オリオン座からの招待状
直也と良枝は京都出身の幼なじみで結婚したが、今は互いに恋人が出来て別居。出世の都合で、離婚は思いとどまったものの、月に一度の出会いもマンネリ化。そこに西陣の「オリオン座」が閉めることになったから、来てくれとの招待状、そこは二人の共通の思い出の場。渋る夫を駆り立てて新幹線で京都に。思い出を語り、良枝の恋人を語るうちに、日帰り予定の直也は「帰るの、やめや。」と考え始める。