光文社時代小説文庫
推理小説界に旋風を巻き起こしたなめくじ長屋捕物さわぎシリーズ第一作だけあって、面白い作品がそろっている。ぎょっと思わせる場面、華麗なトリック、そして何よりも細かい江戸風俗の描写が素晴らしい。
よろいの渡し・・・・人間消失
岡っ引き三人が見守る中、三度笠姿の女隠居殺しの重要参考人人魂長次は日本橋川鎧の渡しを舟でわたっていた。突如乗船客の女がいきなり立ち上がって、裸になり、川に飛び込み一泳ぎして舟に戻る。岸の連中はやんやの喝采だが長次が消えていた。実は乗る前に女と長次が入れ替わり、女は舟の中で六十六部に隠れて着物を脱ぎ、川に飛び込んだ物だった。
ろくろっ首・・・・オヤマの首無し死体
女の衣装を着けた首なし死体が河原で発見されてまもなく、今度は大道芸人が手玉にと投げ出された風呂敷の中から男の首が転がりでる。実は裕福な商家にはキチガイの血が流れていたが、長男にその気が出始めた。長男は女の衣装を着て包丁片手に往来にでて、自殺、おいついた番頭が咄嗟の機転で首を切り持ち帰った物だった。
春暁八幡鐘・・・・なぜ、風呂桶を盗ませたか
長屋の連中が頼まれてある商家の風呂桶だけを盗み出した。仲間の一人マメゾーが金をもらって薄暗がりで女を襲う。実は頼んだ男は商家の若旦那で絵が趣味、風呂桶を盗み出させたのは妹の裸姿が見たかったから、マメゾーに頼んだのは女の興奮姿が見たかったから・・・。
三番槍・・・・人間消失の一人芝居
伏見屋の倉から転げだした番頭徳太郎は血みどろ、手代清七におそわれたという。捕り方がおそるおそるあけると手代は金と共に消失。非人の娘二人が、荒くれ男三人に輪姦された。徳太郎の尻には小さなカタツムリの彫り物。センセーこれを見て盗賊の一味が店に入り込んでいた、清七消失は半分徳太郎の一人芝居と推定、捕り方の伝吉に頼んで、荒くれ三人男の首領は逃げた手代と言うことにしてしまう。
本所七不思議・・・・・江戸番「ムーンクレセントの奇跡」
高利貸し新右衛門と狸の絞殺死体が横十間川の小舟の中で発見された。新右衛門は鍋底長屋のお鶴の体ほしさに金を貸しており、長屋中から嫌われていた。そこで浪人が知恵を出し、五本松の枝に登ったお鶴の九歳の弟が輪にした縄を、下を行く新右衛門の首にかけ、逆方向に思い切り飛び降りた。「証文には、現金では返さない、かわりに娘を差し上げる、とは書いてないだろう」という論理展開はヴェニスの商人を思い出させる。
いのしし屋敷・・・・探偵がだまされる
妾のお菊をインチキ博打のカタに旗本に捕られてしまった、取り返してと手代孝介の頼み。屋敷に乗り込み、天井から覗くと女の暴行シーン。しかし、孝介の死体が発見され、あの女と屋敷の奉公人の道行き姿をみてセンセー合点。実は孝介から逃げ出したいお菊が、旗本屋敷に逃げ込んできた、旗本はインチキトバクで孝介から百両取り上げ、娘はカタにかえさぬつもり。しかし故郷へ戻るお菊を孝介が殺した。怒った旗本が孝介を切った・・・。
心中不忍池・・・・死体の交換
不忍池の出合茶屋で岡っ引き房吉と年増ざかりの女の心中死体。しかもいつの間にか死体が皺だらけの老婆に変わっていた。実は房吉は親分小柴仙四郎の新造と出来ていたが、仙四郎が発見、新造を殺してしまった。それから死体を床下に隠し、婆さんを探してきて殺し、房吉に部屋に安置させ、ついでに池から懐剣を投げて房吉を殺した。仙四郎は新造の死体を引き上げ、病死として、処理していた。