山猫の夏          船戸 与一


講談社文庫


 1982年、おれはブラジルペルナンブコ州エクルウの街の「蜘蛛の巣」なる酒場を兼ねた軽食堂のバーテンだった。エクルウでは、長い間ビーステルフェルト家とアンドラーデ家が血で血を洗う争いを繰り返していたが、前者の娘カロリーナが後者の独り息子フェルナンと駆け落ちしてしまった。
 そうした中、<山猫>と名乗る日本人弓削一徳が、二人を探すよう依頼されたと現れ、おれを強引にやとった。捜索隊は俺たち二人のほかラポーゾ、ブルーザ、ジョゼ、ヨイハム、ビーステルフェルト家執事のモラエスが選んだもので、ほかにミゲルがいたが、<山猫>が参加を断った。捜索隊はアンドラーデ家からもでており、そちらはかって<山猫>を追い回していたアラブ人サーハン・バブーフが指揮を取っていた。
 熱砂の半砂漠など道無き道を越えて追想、途中でジョゼが脱落するがおれたちは、アクアマリン掘りガリンペイロの働く村で追いつくが、村は匪賊に襲われ、二人も連れ去られた後だった。我々は匪賊を追いかけ、不意を襲って殲滅するが、フェルナンは既に首なし死体になっていた。 帰途、サーハン一隊の7人に囲まれるが、イナゴの大群の襲来を利用して虎口を脱出、さらに彼らの戦力を殺ぐことに成功した。しかしサーハンはあきらめず、不意を襲ってブルーザとジョゼを吊るした。
 エクルウに戻る頃、おれは<山猫>の素性とねらいをようやく知った。弓削は父親が2・26事件を起こした首謀者の一人で、ブラジルに逃れた男、子供の頃から徹底的に武術を仕込まれたという。バッタの大群に襲われてビーステルフェルト家が報奨金支払を渋ると見るや、バンビーナの経営する娼館に陣取り、両家を戦わせて力を殺ぎ、エクルウの街を乗っ取ろうと画策し始めた。
 エクルウの街が外部と遮断され、警察と分遣隊が動き出した……。

 作者が得意とする日本人の国際浪人を主人公に据えた作品で、エンタテイメント小説として夢中で読ませる迫力がある。また主人公の<山猫>が、次々と殺人を犯しながら、どこかさわやかな様子なのがいい。
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