傭兵ピエール      佐藤 賢一

集英社

 15世紀初頭、アングル王の侵略が始まってもう百年、フランスは荒れていた。乱世である。大貴族ドウ・ラ・フルトの私生児ピエールは傭兵対隊を率い、狼のように広大な地平を縦横無尽に駆けめぐる。ロレーヌの大雪原で騎馬の三人を襲って、女をものにしようとしたとき、女は不思議なことを言った。「私はフランスを救うため、神に遣わされたものです。使命を果たすまであなたに処女をささげることを待って下さい。」女はジャンヌ・ダルクと名乗った。
 アングル軍の猛攻の前に、南フランスを守る最後の砦オルレアンは陥落寸前だった。劣勢を挽回すべくシャルル王太子は、傭兵を募集、ピエールの一隊も採用されるが、指揮を執る救世主と呼ばれる女性ラ・ピュセルを見て驚いた。なんとあのジャンヌではないか。けれども彼女の奇矯な行動がフランス軍を奮い立たせ、トウーレルの決戦に勝ち、ついにオルレアンを解放し、ランスで戴冠式を行うに到った。しかしラ・ピュセルの威力もここまでで、パリ攻撃に手間取る。すると筆頭侍従官ラ・トレモワーユはラ・ピュセル、ラ・イール等の戦争続行案を冷笑し、ついには傭兵隊を解雇してしまう。
 仕方なくラ・ピエールは、隊を率いて故郷アランヴィルに向かう。しかし故郷は冷たく、「村をジェノワ隊が襲おうとしている。彼らから我々を守ってくれるなら滞在させて差し上げよう。」承諾し、村を固めて来襲に供えると、果たして彼らはやってきた。弓矢による合戦は矢が尽きるとおしまい、ならばと撃って出る。騎乗のピエールは、相手の隊長を槍で一突き、見事に勝利を収めた。隊員たちは村で平和な生活を送り始めた。
 二冬が過ぎて、閑を持て余すピエールを「ナーブルの幽霊騎士」と称する男が訪れた。「実はラ・ピュセルがアングル軍に捕らえられ、ルーアンで火あぶりに処せられようとしている。助け出してもらえまいか。」はるばるルーアンに潜入したピエールは、コーション司教がラ・ピュセルに火あぶりを宣告する現場を目撃、後をつけて行って司教の女カトリーヌをたらし込む。とうとうカトリーヌはラ・ピュセルの衣装を着せられ、身代わりに火あぶりにされてしまった。ピエールは、ラ・ピュセルとともに、「仮面の騎士」に助けられながら、ノルマンデイを脱出、領民虐待のジル・ドウ・レ城も通過し、約束の修道院に送り届ける。しかしピエールは、最後までラ・ピュセルをいとおしく思いながら、何か神々しく、一人の女として見ることが出来なかった。
 再びアランヴィルでのんびりした生活が始まったが、何か満たされず、酒びたりの日々が続く。そんなピエールを部下のトマが奮い立たせ、あの修道院を襲撃させ、ラ・ピュセルを略奪させる。ところが数日を経ずしてアランヴィルの町が騎士団に包囲され、ピエールとラ・ピュセルは、アンジュー王妃ヨランド・ダルゴンのもとに引き立てられて行く・・・・。二人の運命やいかに?

 良くできたエンタテイメント小説。成功の原因は史実を丹念に調査し、その上に若干の想像を加えて、大ロマン・冒険談を作り上げた事であろうか。船戸与一の作品に若干似ていると思った。ただ、一つ欲を言えば、思想的な物が浅い気がする。読者に考えさせる部分のつっこみが通俗に流れているため、全体西洋浪速節という感じになっている点が否めない。

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