世にも美しい数学入門   藤原正彦/小川洋子

ちくまプリマー新書

書店でこの本を私が選んだ理由の第一は対談集で、聞き手があの「博士の愛した数式」を書いた小川洋子だったからである。もう一つは彼女がワセダの文科出身で、数学の力はそれほどでもない、と思えた。高名な数学者などの書いた数学初歩本というのは、最初はよいが、どこかひどく難しいところが途中にあっていやになってしまう、彼女ならそういうことはないだろう、楽しく読めるだろう、と感じたからである。
予想通りだった。
この本は対談集になっているけれども、後で出版社の人が相当に苦労してまとめたのだろう。多分分からなくて著者にもう一度聞きに言ったり、昔の教科書を取り出して考えたに違いない。しかしその甲斐あって読みやすくなっている。数学者と小説家の対談という雰囲気もそれなりに出ている。

まずは完全数や友愛数の話が目を引く。完全数は約数の和がそれ自身になる数字でたとえば6=1+2+3で、連続した3つの数字で表されるそうだ。小川さんが小説で指摘した江夏の背番号28もそれである。220と284は友愛数である。220の約数の和が284になり、284の約数は220になる。小川さんによると3つがそういう関係にあるという「社交数」もあるそうなのだが、藤原氏が「知らない」としているところが面白い。社交数になるともう彼の言う「美しい定理」にあてはまらぬのかもしれない。

書物をおいてちょっと考えたところは、nの2乗、nの3乗の和を、nの和をもとに求めるところくらいだった。昔高校でやったことを思い出す。ここでは図形との関連で説明しているところがなかなか興味をひく。
逆に素数が無限にあることの証明などはなるほどこう考えればいいのか、とうれしくなった。ゼロの発見がその効果とあわせて非常に分かりやすい。これが結局10進法につながるのだろう。アラビア数字では確かに掛け算が不可能だ。フェルマー素数が大嘘であったが、後にコンパスと定規で書ける正n角形に関係してくるところなども興味をひく。
フェルマーの大定理「xn+yn=znのnが3以上になると満たす解がない」、あるいはゴールドバッハの「6以上の偶数はすべて二つの素数の和であらわせる」など難しい問題も、興味の起こる程度で押さえているところが面白い。余り突っ込んで議論されると読者は投げ出したくなる。

最後はπの話。昔モンテカルロ法に0から1の間の乱数をペアーで発生させ、x2+y2を計算しそれが1より大きくなるか小さくなるか判定し、πを求める事ができるという話が書いてあった。これに類する話や(π/4)=1−1/3+1/5−1/7+1/9−1/11・・・・・となる話、あるいは関孝和が「円に内接する正n角形と外接する正n角形の間と考えて、かなり正確な数字まで求めた話等いづれも楽しく読めた。

読んで何か得る、という話ではないかもしれないけれどボケかかった頭のねじにちょっと油をやるには最適の読み物と感じた。

060308