新潮文庫
吉野葛
十津川、北山、川上の荘には、今でも「南朝様」或いは「自天王様」と呼ばれる南朝の後裔に関する伝説があるという。主人公はいつかそれを題材にした小説を書きたい、と思っていたところ、学生時代の友人津村から現地調査に行ってみたら、と誘われて出掛ける。説話調で、吉野を旅行しながら、そこの風物自然を描写し、土地の歴史伝説を語っている随筆風作品。途中に津村の結婚の話を入れている。
盲目物語
「わたくし生国は近江のくに長濱在でござりまして…・・左様、左様六十五さい、いえ、六さい、に相成りましょうか」と盲法師の懐旧談と言うスタイルを取っている。法師は、幼いときから小谷の城に奉公し、やがて信長の妹で浅井長政の妻となったお市の方に仕えるようになった。長政は信長のために滅ぼされ、男の子は殺された上にさらされた。しかしお市の方は三人の娘と共に生き残った。彼女は信長が天王寺で倒れた後、柴田勝家と再婚するが、今度はその勝家が秀吉に滅ぼされると言う第二の悲運にあい、ついに悲劇的生涯を閉じる。告白体のやさしい文章が冴えており、私はなんとなく芥川龍之介の「糸女覚え書き」を思い出した。
020113