新潮文庫
漱石の明暗は、半年前にお延と結婚した主人公津田が、仲立ちをした勤め先の社長吉川夫人に、昔の恋人清子が流産して近くの温泉に滞在している、とたきつけられ、内緒で出かけ、清子に遭遇したところで終わっている。
津田と清子は吉川夫人から清子にと送られたリンゴを食べる。食べながら、清子は津田とここでどうして遭遇することになったのか、なぜリンゴが送られたのか等を考え始める。津田の行った温泉宿には安永という男と女が宿泊していた。客は彼らよりいないから、彼らと昔心中事件があったという滝壺などを散策する。やがて安永組が帰郷する日が近づいてくる。津田はその後清子と二人になることを考えている。
一方金が入り少し余裕のできたお延は呉服を買う等していたが、吉川夫人から二人の仲が心配だ、今回の温泉行きは津田が自分から云いだした、実は津田は前に清子という女性と結婚寸前まで行き、思い切れない様子だった等と言われ、にわかに不安になった。早速駆けつけようと考えるが、夫人は従姉妹の継子の婚約について相談に乗れと強引に引き留めにかかる。お延は、二人の仲を裂こうとしているのは小林ではないか、と考え、詰問するがそうでないと分かった。おぼろげながら吉川夫人を疑いだし、一度買った着物を質に入れて金を作り、台風が来るとの予報の中を出かける。
津田の怪しげな様子に清子は温泉を去ろうとするが津田が引き留める。嵐のさった翌日津田は宿から消えた清子を滝壺で発見し、「あのときなぜ自分を棄て、今の夫関に走ったか。」と尋ねる。すると彼女は「あなたが信用できないからだ。」と答える。まさに本質だった。そこにお延が到着し、津田をはさんで対決、清子は去る。
津田とお延は宿に戻るが二人の間のわだかまりは大きい。お延は津田の汚らしさと自分への愛のなさを感じ、一言も口を聞かない。津田がなんとか状況を改善させようとするが一度失われた信頼は戻らない。事態を心配した岡本から依頼されてお秀と小林がやってくるが、お秀に至っては自分が吉川夫人をたきつけたことを棚に上げ、兄さん夫婦が迷惑をかけるなど的外れな非難を繰り返す。ところが翌朝お延が消えた、と知って皆大慌てになる。
お延は自分自身が情けなくなり、あの心中事件のあった滝壺にでかけ、夜をあかし、そのあと山の中に分け入った。死ぬ気にはならない、しかしこのまま発見されて連れて帰られるのはなお嫌だ…・。
読み終って「なるほど、こういう終わり方か。」と感心した。未完の作品の続編を書くことは非常に難しいと思う。続編を書く作者は本人ではない。しかし本人が考えるであろう結末を予測して、本人の書き方を踏襲して書くことが要求される。漱石が書きたかったのは、親からまだ完全に独立できず、人生を真剣に生きていないからお延の真の愛を理解できず、昔の女に惹かれる、信用のおけない津田の断罪であったのだと思う。そのような考えは「それから」の長井代助によく似ている。その意味ではこの作品は少々ロマン小説的な感じはするが妥当なところと思う。
ただ、漱石ならこうは書かなかった気もする。なぜならこの作品は多視点でみた作品であるが、主人公はやっぱり津田であり、背景の小林に見られるように時代の移り変わりを描きたかったのではないか。どうも他の作品を見ると漱石は女を二義的なものと考えるのか、女の気持ちが理解できないのか、そこをつきつめて書こうとはしていないように思う。ところが続編では作者が女性のためか、女性的視点が前面に出て、主人公はお延になり、時代の移り変わりなどはとんでしまったように思えた。
010726