ゾウの時間ネズミの時間   本川 達雄


中公新書

この本は、始めて出版された頃一度読んだが、今回「母なる自然のおっぱい」を読んで考え方に共通するところがあると思い、読み直した。もっともこちらは「母なる」に比べると、ずっと理論的で生物学の入門書のような趣さえあるが…・。しかし、我々はつい自分だけの視点でものごとを眺めるが、この書を読めば、動物は動物流の考え方でものを考え、進化してきたことに驚かされることは、請け合い。
あとがきにある「近頃、外国との摩擦のニュースを聞くにつけ、違う世界観を理解することのむずかしさがよく分かる。同じ人類の間でそうなのだから、違う動物の世界観を理解することなど、よほどの努力を払わなければ出来ないことである。しかしその努力をしなければ、決して人間は様々な動物を理解し、彼らを尊敬できるようにはならない。」は印象的である。
1動物のサイズと時間
…寿命、日常の時間など哺乳動物の時間は体重の4分の1乗に比例する。哺乳動物の一生における心拍数はほぼ5億回で一定である。
2サイズと進化
…サイズが大きいということは捕食されにくい、体温を一定に保てるなどの利点があるが欠点もある。同様のことが小さいものについても言える。一般に島では代を重ねるごとに象などの大きいものは小型化、ネズミなど小さいものは大型化してゆく。
3サイズとエネルギー消費量
哺乳動物の単位時間当たりのエネルギー消費量、つまり標準代謝量は体重の4分の3乗に比例する。つまり大きい動物は体積の割にはエネルギーを使わない。4分の3乗則は変温動物や単細胞生物にもあてはまるが、両者は恒温動物にくらべ、いちじるしく低い。標準代謝量を理論的に計算すると、日本人は88.8ワット、栄養量からみるとこの2倍近い127ワットを消費する。ちなみに一次エネルギー使用量は一人当たり4274ワット、実に標準代謝量の63倍も使っている!
4食事量・生息密度・行動圏
食べる量は体重の0.7-0.8乗に比例する。大きいものは体重が増えるほどには食わない。早く肉を食いたければ小さい動物が効率が良いことになる。生息密度はほぼ体重に反比例する。人間は理論的には1平方キロメートルあたり1.44人、日本の人口密度は320人だからまさにギュウギュウ。人間の理論行動圏はほぼ半径2キロの円に対応する。
5走る・飛ぶ・泳ぐ
一般に大きいものの方が早いが、象などでは足にかかる衝撃を支えきれなくなり遅くなる。種類別では何と言っても鳥が早く、地上をゆくものの40倍も速く飛ぶ。運搬コストは体重のマイナス0.3乗に比例するが、泳ぐ(魚)が一番効率的、次いで飛ぶ、走るは非効率である。乗り物では自転車が非常に効率的である。
6なぜ車輪動物がいないのか
車輪は小回りがきかず、障害物の多いところでは立ち往生してしまう。平らな道路で始めて有効である。バクテリアの一種ではスクリューを使っているものがいる。
7小さな泳ぎ手
隊長1ミリを境にして生き物の世界は大きくかわる。1ミリ以上では我々の世界と近似しており、小さな生き物は筋肉などの動きで対応する。しかしそれ以下ではレイノルズ数が低くなり、やたらに環境が張り付いてくる。その世界では鞭毛、繊毛などの動き、あるいは拡散などで対応する。
8呼吸系や循環系がなぜ必要か
酸素とをはじめとする分子を、サイズが小さければ拡散だけで体内に取り込める。大きくなると身体中の水を引っかき回す循環装置、体積に比べて表面積が小さくなるからそれを補う呼吸系が必要になる。ミミズのように円筒形をした動物では拡散だけの場合、差代の半径が0.8ミリだが、循環系があるために1.3センチの太いものがいる。
呼吸系は体重の4分の3乗に比例する。
9器官のサイズ
心臓や肺の重量は体重に比例するが、脳重は4分の3乗に比例する。骨の重量は骨の断面積(支えなければならぬ重量)x骨の長さすなわち体重の3分の4乗に比例する。つまり大きいものほどごつい。
10時間と空間
大きさが長さの3乗に比例するなら幾何学的相似になるが、動物の場合は4乗に比例する弾性相似が成り立つ。この結果時間は体重の4分の1乗に比例し、体長の4分の3乗に比例する。
11細胞のサイズと生物の建築法
動物の細胞のサイズは象でもネズミでも同じで、コントロールタワーにあたる核をすべての細胞内に持っている。植物の細胞は動物のそれの5倍もあり、原形質流動によって細胞内を攪拌している。細胞の積み方は脊椎動物が骨組み型だが、動かなくて良い植物はレンガ詰建築である。さらに細胞の中央に水の詰まった液胞をおき大きさを嵩上げしている。
12昆虫…小サイズの達人
昆虫の殻をクチカラと呼ぶがそのおかげで、体表面を外傷から守り、乾燥を防ぎ、力を支える骨格系として利用している。体の外側をすっぽり覆う構造物によって力を支える構造をモノロック構造と呼ぶ。問題は脱皮の解きに危険が伴うことである。空気の詰まった気管系を使い、最後は拡散により細胞に酸素を分配することも特色である。さらに変態により食べる時期と飛ぶ時期を分けている。
13動かない動物たち
サンゴは無数のユニット構造よりなりたったぐ群体で、流れを利用して捕食している。
14きょく皮動物…ちょっとだけ動く動物
ウニはキャッチ結合組織を有し、トゲを折り畳むことが出来る。ヒトデは外骨的内骨をもち、脱皮をなくすことに成功している。自切はヒトデ、ウミユリなどに見られる。一般にきょく皮動物はキャッチ結合組織をうまくつづり合わせて進化してきた。
011008