虞美人草           夏目 漱石

新潮文庫

大学卒業の時に恩師の銀時計を貰ったほどの秀才、小野。
彼は恩師、狐堂先生に世話になり、将来はその一人娘小夜子を嫁に貰うと考えられていた。
甲野家には、美しいが傲慢で虚栄心の強い藤尾と、腹違いの兄欽吾がいたが、兄は継母の気持ちを考え、全財産を捨ててでて行く覚悟。
その藤尾と小野が引かれあっていた。
そして宗近家とその妹の糸子の6人が中心となってドラマが進んで行く。
最後に一端は藤尾と結婚すると決めた小野が、弧堂先生の抗議や宗近の動きにつれて、小夜子と結婚することにし、藤尾は毒をあおぐ。
今から考えると古風なメロドラマといった趣だが、学ぶべき点が多い。

・1章1場面でそのまま芝居に出来そうなかきぶり。
・漢語を縦横に駆使した風景描写、人物描写、性格描写等
・文章が歯切れ良く、論理的。
・最後に藤尾に自殺させているのは、最初に美人の死というこの場面を想定して、物語を作っているようにも見える。
漱石の女性観も良くあらわれているように思う。
女の立場にかなりの理解を示しながら、封建社会の男尊女卑、学問優先の考え方を強く持っている。
女は能力がない、藤尾は嫌みな女性だと言う考えである。
・紅を弥生に包む昼酣なるに、春を抽きんずる紫の濃き一点を、天地の眠れるなかに、鮮やかに滴らしたるが如き女である。夢の世を夢よりも艶やかに眺めしむる黒髪を、乱るるなと畳める鬢の上には、玉虫貝を冴冴と菫に刻んで、細き金脚にはっしと打ち込んでいる。静かなる昼の、遠き世に心を奪い去さんとするを、黒き眸のさと動けば、見る人はあなやと我に帰る。(21p)
・天下を相手にする事も、国家を向こうへ廻すことも、一国の群衆を眼前に、事を処することも、女には出来ぬ。女はただ一人を相手にする芸当を心得ている。一人と一人と戦うとき、勝つものは必ず女である。(29p)
・この作者は趣なき会話を嫌う。猜疑不和の暗き世界に、一点の精彩を着せざる毒舌は、美しき筆に、心地よき春を紙に流す詩人の風流ではない。(117p)
・愛せらるるの資格を標榜して憚らぬものは、如何なる犠牲をも相手にせまる。 相手を愛するの資格を具えざるがためである。(190p)