岩波文庫
明治時代の美文の上に、入れ子構造が重層的に構成され、しかも時間的にも過去にしばしばさかのぼっており、わかりにくい。しかし読めば読むほど味のある作品である。
解説によるとこの作品には「稲生武太夫怪物に逢う事」として元ネタ作品があるらしく、巌谷小波も同じ時期に同じ題材で「平太郎化物日記」というお伽噺を発表しているそうだ。修行中の小次郎法師が、三浦の大崩壊の茶屋の婆さんの話を聞くところからはじまる。
嘉吉が酒樽運搬中に失敗した話、宰八が嘉吉を荷車にのせて運ぶ話、秋谷の怪しい女が緑の球を与え嘉吉を救おうとしたが、嘉吉が件の女にふれて気が変になった話、秋谷屋敷から5人の妻女の死にともなって5人の棺がでた話などが続き、法師は彼らの回向をしようと屋敷に向かう。
ついで鶴谷の下男仁右衛門、宰八、訓導などの会話で、秋谷屋敷に行ったときの手鞠の話し、そして秋谷の屋敷に滞在する書生、葉越明の話があり、状況、登場人物の紹介が終わる。
21から舞台が、秋谷屋敷になり、これが主題の草迷宮を意味しているようだ。小次郎法師と書生の会話で、実は明が幼子の昔、なき母が唱ってくれた手毬唄、耳底に残るあの懐かしい歌を聴きたいと思ってこの屋敷に来たこと、同時にこの化け物屋敷で嘉吉、宰八、訓導等と共に経験したこと、あるいは起こっている怪奇現象の説明に映る。このあたり、五色の鞠、光る西瓜、化け物ウサギ、宙に浮く行燈、一枚一枚降り注ぐ木の葉そして最期に毬の乱舞など、さながら万華鏡を見る感がする。
そして悪左衛門と名も知れぬ「令室」による、化け物屋敷のトリックの種明かしらしきものと続き、明は手毬唄を聞けぬ状態に迷ったまま放置される。結末の場では、あれかこれか迷う中、夢の中で、明は小次郎法師を毒殺する。(しかし、現実には明は赤子のようにすやすやと眠っている。)
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