日本橋
日本橋 泉 鏡花
岩波文庫
名文であるが、鏡花の日本流に様式化された感性にしたがって書かれており、現代人が100%理解するのは、かなりむずかしい。
それだけに作者の感性がわかってくると、さらに味の出てくる作品なのかもしれない。
前半はエピソードを通して登場人物を紹介している。
はやらない稲葉屋の主で病気のお孝、やりてばあさん、お孝の妹の千世、瀧の家の売れっ子清葉、その清葉が思いをよせるが医師葛木普、そして強引だが純情、お孝に恋する五十嵐傳吾こと羆の筒袖男、そしてストーリーのなかで狂言回し的役割を演ずる巡査笠原信八郎。
エピソードはお千世が路上でいじめられる話とそれを救う葛木の話、雛祭りに使ったさざえと蛤を海に返す話、それを巡査が咎める話・・・。
後半、お孝をひこうとする葛木、葛木の世界を知って恐れ入る信八郎、お孝から手を引けと強引にせまる五十嵐、お孝恋しさで昔の子を瀧の家の前に捨て、それを清葉が育てているといううちあけ話、その話にほだされて青法師となって去ってゆく葛木・・・・。
その翌年、瀧の家の火事のさなか、炎の中から、お孝とその母と子供を抱えて五十嵐が飛び出した。
それでもどうにも嫌いでお孝は五十嵐を刺してしまう。
旅僧姿の葛木に最後の別れを惜しみ、遺言を残して引かれてゆく。
しかし、プロットよりも独特の文章とそこに感じられる人情を感じ取りたい作品。
・盛の牡丹の妙齢ながら、島田髷の縺れに影が映す・・・・肩揚を除ったばかりらしい、姿も大柄に見えるほど、荒い絣の、聊か身幅も廣いのに、黒襦子の襟の掛かった、縞御召の一枚着、友禅の前垂、同一で青い帯。緋鹿子の背負上げした、それしやと見えるが仇気ない娘風俗、つい近所か、日傘もささず、可愛い素足に台所穿きを引掛けたのが、紅と浅黄で彩る飴の鳥と、打切飴の紙袋を、両の手に、お馴染の親仁の店・・(5P)