殺人全書     岩川 隆

光文社文庫

バラバラ殺人、箱詰め殺人、毒薬による殺人、自動車殺人、金属バット殺人など、実際に起こった殺人事件について、次々に解説している。
全体としての結論はないから、推理小説というわけではない。
あとがきにいうように
「いわば一つの殺人研究、殺人者研究を試みるつもりで、できうる限り克明に事実を調べることによって、人間と何か、文明とは何か、といったようなことを考えてみたかった。」
結果の所産と解釈すべきなのだろう。
しかし読み通してみると殺人者の心に対する理解が一歩も2歩も進む気がする好編である。

・処理の美学  死体の処置に困って、なんとなく逃げおおせるため、憎悪のあまり、サデイズムがこうじてなどバラバラ事件の動機はいろいろ。しかし犯人は案外平然としているものらしい。
・消滅の希求   アドルムを飲ませて切り刻み、梱包して送った話、恋人にガソリンをかけて殺した話など。いづれも小心な犯罪者のその場逃れの処置のようにみえる。
・無力者の執念  東大でおきた青酸カリいりウイスキーを贈り、担当助教授を殺した事件が面白い。ほかに青酸カリを口移しで飲ませる話、チフス菌いりカルカン饅頭事件など。
・古典的な確信   劣等感にさいなまれた男の殺人と脱獄、オオサキ狐、タヌキ、むじな蛇などの迷信に端を発する殺人について扱っている。
・偏執の日記  異常染色体をもつ犯罪者の話、ニオイの話を取り扱っている。ねずみのニオイ機能を除去してしまうととたんに狂暴になる話はびっくりした。アベサダの話、おばあさんを殺して蝙蝠傘だけを盗み、自首した男の女の匂いへの偏執ぶりも目に付く。
・マシーンの白い血   会社経営で失敗し、浮浪者を身代わりに、交通事故を起こし、保険金を詐欺しようとした事件。ほとんど成功しているところが面白い。
・悪魔と天使の間  虫歯の子どもを歯医者に連れていったところ全身麻酔を打たれ、死んでしまった事件など医事関係の事件。
・抑圧されたむれ  精神分裂症の大卒部下が男が上長の課長をバットで殴り殺した事件、 仕事のしすぎと嫁と姑の争いに疲れた男が姑と長女を殺した事件