少年H(上、下)        妹尾 河童

講談社ハードカバー

妹尾河童は、1930年、神戸生まれであるから、太平洋戦争が始まった時、11歳だった。
この作品は、小説としてあるが、実際は戦争という時代背景での、10代前半の実体験を、時代順にエピソード風に綴ったものである。
時代背景等は、後からの情報で補った面もあるようだが、作者の感情としては、正直に書かれており、そのころの経験を少しでも持つ読者には、特に共感を呼ぶ。
射撃部で苦労した経験、戦災者住宅の隣の部屋の腹を空かした姉妹ににぎりめしをやることに抵抗した経験、学校にゆかず、絵を描き続けた経験等が、素直な目で書かれており、わざとらしくないところがいい。
同時に単なる事実の羅列ではなく、軍国主義に押しつぶされていった庶民の生活実体が良く分かり、神戸空襲前後から敗戦にかけての記述は胸をゆさぶり、歴史的視点からも興味深く、加えて作者の平和や自由を愛する考え方も鮮明に出ている。
作者がこれからの時代をになう少年、少女に読んで貰うために、総ルピにたことも分かる気がする。
また、自叙伝を書くのに、このように時代に応じたエピソードを綴って行く方式もあるのだと感心。

・焼夷弾は3種類あった。「油脂」、「黄燐」、「エレクトロン」だ。(上309p) ・暗夜に霜の振るごとく・・・・(下4p)

・白い蝶のように見えたのは、実は岩波文庫の焼け残ったページが、風に吹かれて舞い上がっていたのだ。墨色の一色になってしまった焼け野原に、紋白蝶が乱舞しているかのような風景は、まるで不思議な夢を見ているようであった。(下107p)

・本当の勇士とは、死を恐れぬものと言うことではない。自分の身を最期まで守る技術を身につけている者だ。そうでなければ真の勇士として戦えない(下179p)

・天皇陛下の名をはずしては、この戦争は始まりも終わりもなかったのだ。そう考えているとき、Hは不思議な思いがした。もし天皇御自らの言葉が放送されなければ、こうも静かに戦争の終結を国民が受け入れるはずがなかったことだ。・・・・国民のほとんどが「こんなになってしまったことをどうしてくれるんですか!」と天皇陛下に訴えも恨みもしないのが不思議だった。(下228P)

・占領政策の第一の目的が、天皇と国家神道とを切り離すことのように見えたのに、天皇に対しては別の扱いがなされているのは矛盾していると感じたからだ。(下256P)

・戦後初の総選挙・・・・(共産党は)当選したのはたったの5人だった。天皇を批判したのがいけなかったらしい。(下302p)

・もう、他の人がどうだとか、世の中は間違っているだとかいうのはやめや。自分が何をやりたいかに忠実になればええんや。これからは僕自身のために行きよう。(下319p)